CASE

株式会社ZIPAIR Tokyo

新たなエアラインの会社として ――“NEW BASIC”な人事評価制度をつくる

私たちの想いを反映した制度づくりに取り組んでいただいた

取締役

深田 康裕

我々だけでは最後までやり切ることは難しかったと思います

総務部 部長

藤田 智博

良い制度ができたと自信を持って社内に説明していきたい

総務部 マネジャー

西岡 靖修

JAL傘下のLCCとして業容を拡大しているZIPAIR。 FMHRは、ZIPAIR立ち上げ時に一般職向け人事制度の策定を支援したのに続き、2023年には管理職向け人事制度の策定も支援した。目指したのは、独自のビジネスモデルを追求する航空会社にふさわしいオリジナルの人事制度。その構築までの過程を、両社のキーマンが振り返った。

航空業界の常識に囚われない制度で生産性を向上

FMHR 小林 はじめに、改めて御社のご紹介をお願い致します。

深田 弊社は日本航空(JAL)の完全子会社です。ご存知の通りJALは2010年に経営破綻したのちにV字回復を遂げましたが、当時の経営陣がよく言っていたのが「既存事業以外の領域を伸ばせ」ということでした。 そこで、JALのようなフルサービスキャリアとは異なる事業領域として、ローコストキャリア(LCC)に着目するようになりました。 2017年の秋に準備室を立ち上げ、翌2018年の7月に準備会社を設立しました。その後、社名を「ZIPAIR Tokyo(ZIPAIR)」とし、必要な人員の採用や研修など運航への準備を進めたうえで2020年5月にZIPAIRとしての第1便を飛ばすことが決まっていました。 ところが、ちょうどその直前にコロナ禍に見舞われてしまい……5月に予定していた初フライトは延期となりました。

FMHR小林 不運としか言いようのないタイミングでしたね……。

深田 ええ。ただ、コロナ禍によって貨物需要は非常に旺盛になりました。弊社が使用している「ボーイング787型機」は客室が広く航続距離も長い。そこで2020年6月、貨物だけを積んで成田からバンコク(タイ)まで飛行機を飛ばしました。これが弊社として初のコマーシャルフライトです。同年10月には旅客事業も開始することになりましたが、最初の便となった成田‐インチョン(韓国)線にご搭乗いただいたお客様は行きが2名、帰りが1名。冗談のような話ですが、乗務員のほうが多かったんですよ。本当に厳しいスタートでしたが、なんとか生き残り、コロナの収束とともにお客様が増えてきました。2022年7月に黒字化を達成し、その後の経営状況も順調です。2024年3月より就航するバンクーバー(カナダ)線を含めると9路線になります。

FMHR 山田 FMHRが最初に御社に関わらせていただいたのは、まだ飛行機を飛ばす前の時期でしたね。ベースとなる人事制度の策定をご支援させていただきました。

深田 そうですね。もっと言えば、私がまだJALに在籍していた2012年の頃からフィールドマネージメントさん(FMHRの親会社)にはマーケティング領域でお世話になっていました。我々は飛行機を飛ばすオペレーションでは誰にも負けない自信があっても、マーケティングについては誰にも勝てない自信があります。社会が成熟した今の世の中では、各分野の細分化・専門化が進んでいて、エアラインの会社がマーケティングのプロにかなうはずがないですから。であるならば、自前でどうにかしようとするよりも、その道のプロに助けてもらうほうがいい。それと同じ考え方で、ZIPAIRとして人事制度策定の必要性が出てきたときに、人事制度のプロであるFMHRさんにご相談しようという考えが真っ先に浮かびました。「NEW BASIC AIRLINE」を標榜する我々として今の時代に合った制度を構築するには、プロの力を借りるのが不可欠だと考えました。

FMHR 山田 ありがとうございます。当時を思い返すと、いわゆる一般職の方たちに対して「Z_ONE(ゾーン)」という名称が付けられていたことがとても印象に残っています。旧来の航空会社では客室乗務員と空港で働くグランドスタッフが完全に分担されているのが常識。それに対してZIPAIRでは、例えば客室乗務員の方が空港での業務や広報など複数の業務を担当する仕組みを導入されていて、そうして幅広い分野で活躍する社員のことを「Z_ONE」と呼んでおられます。新しいエアラインの会社として、働き方についても新しい形を追い求めようとする御社の思いがよく表れていますよね。

深田 客室乗務員業務だけではなく、空港旅客サービス業務やサービス企画業務など複数の役割を担い、幅広い分野で活躍してもらうという思いを込めて、ZIPAIR Tokyoの「Z_」に「一人ひとり」を意味する「ONE」を組み合わせた造語として、「Z_ONE」と名付けました。複数の業務を担当するのは、長く働いてもらえる仕組みでもあり、「客室乗務員業務もできるビジネスパーソン」になって欲しいと考えています。客室であれ地上であれ、お客様に接するという点では同じですし、もちろん、その分の手当も支払います。複数の業務が絡むがゆえに評価制度のつくり方には工夫が必要になりますが、そこはFMHRさんに頼らせていただいて。

FMHR 山田 働き方のカテゴリを区分して整理したり、社員の方の納得感が出るように多面評価したりするなどの工夫をしました。それから、立ち上げから間もない会社様でしたので、いかに運用に耐えられるかという視点を盛り込んで制度設計をさせていただいたことをよく覚えています。

FMHR 小林 複数の業務を担うことでお客様のことをより深く理解できたり、キャリアの幅が広がったりと、会社側だけでなく個人にとってもメリットは大きいですよね。ほかの航空会社にはない画期的な仕組みだと思いますが、そういうことをすすんで実践されるカルチャーも御社らしいなと感じます。私は常々、人事制度にはメディアとしての側面があると考えているんです。企業としての姿勢が評価などの仕組みに反映され、社員はそこからメッセージを受け取る。だからこそ私たちも、可能な限りその企業の戦略やビジョンと接続した形で制度をつくるように心がけています。

深田 思い通りにいかないことも多いですが、少なくとも「こうありたい」という理想像のようなものはしっかりと持っていますね。FMHRさんには、そうした私どもの想いを受け止めていただいたうえで、それもしっかりと反映した制度づくりに取り組んでいただきました。コンサルにありがちな、コンサル側が持っている型にはめようとするような手法ではありませんでしたね。

顧客のこだわりに応えつつ、的確にスケジュールを管理

FMHR 山田 2023年の夏には、新たに管理職向けの人事制度策定についてもご相談いただきました。

深田 営業開始から4年が経って1期生の中から管理職に就く者が現われるようになり、新たな制度を設ける必要性が出てきました。このときも「FMHRさんにすぐ電話するべきだな」と。

FMHR 小林 そうして真っ先に思い浮かべていただけたことが本当にありがたいですね。

深田 私がJALにいた頃から含めれば10年以上のお付き合いになりますし、信頼度は別格ですから。ただ、今回の管理職の制度づくりを担当した2人の社員は、外部のコンサルと仕事をするのは初めて。どういうふうに感じたのかは聞いてみたいかな。

藤田 事業拡大に伴って業務量がどんどん増えている状況でもありましたから、FMHRさんのお力を借りられたのは大きかったです。新たな制度をつくる必要性に迫られている一方で、他の業務もあって専念することはできない。さらに一般職の制度との整合性を取る必要性もあるわけで、もし我々だけに任されていたらスケジュール通りに最後までやり切ることは難しかったと思います。

西岡 正直に言えば、コロナの影響が大きかった2020年、2021年と赤字だったこともあって、極力お金をかけずになんとかしようというのが社内の共通認識でしたので、制度策定にコストをかけるというところは一つのチャレンジでした。でも、社内のリソースだけでは何から手を着ければいいかさえ分からなかったのも事実。一般職の制度をつくってくださったFMHRさんに再度ご協力いただけることになって、すごく安心感がありました。週に1度のミーティングを15回ほど繰り返しながら進行していくスケジュールになっていましたが、結果的にはピッタリでした。最初からゴールをイメージして、そこまで導いていただけたことは本当に助かりましたね。

藤田 私どもの「ここにはこだわりたい」という要望から、途中、手戻りしてしまうようなお願い事をさせていただく場面もありましたが、ネガティブな反応をされるようなことも一切ありませんでした。3カ月という非常に短いスパンだったにもかかわらず、私どもの想いも汲んでいただきつつ丁寧に進行していただけたと感じています。

FMHR 山田 私どもとしても、一般職の制度策定でご一緒した経験があったからこそスムーズに進められた部分もあったように思います。御社の意思決定のスピード感をある程度は把握できていましたので。

「航空会社の人事制度は同じような形になっていくのでは」

深田 仮にそうだとしても、短期間であれだけの制度を整えてくださったのは本当にすごいことだと思います。また、そういう仕事の進め方を社員が経験できたところも、FMHRさんへの依頼を通して得られた価値の一つだと感じています。一般職の骨子がしっかりしていたからこそ、管理職の制度に応用させやすかった面もありました。HRの世界は本当に難しいと思いますが、これまで一般職の人事制度を運用してきたなかで社員から制度に対する不満は全くと言っていいほど出ていません。斬新な制度でありながら社員の納得感を得られている点は、さすがFMHRさんだな、と。制度に組み込まれている360度評価も当初はうまくいくか不安でしたが、みんなちゃんとやってくれています。

FMHR 小林 御社の中で、そうした組織づくりがなされているということだと思います。入社時に全員に対してブランド教育を実施されているのもそうですが、企業として何を大事にし、どこに向かっているのかが社内でしっかりと共有されている。ZIPAIRという全体のシステムの中で、その一部として制度運用が機能しているのだと思います。

藤田 新たに用意した管理職向けの制度も、業務別に責任の重さを適切に評価する仕組みが盛り込まれていて、社員の納得感を得やすいものになっています。たとえ若くてもジャンプアップが可能な仕組みになっていますし、良いものができたという手応えがありますね。

FMHR 山田 手前味噌になりますが、私自身もすごく良いものができたなと思っているんです。その要因の一つはやはり、御社として「こういうものにしたい」という想いが強くあったこと。先ほどの藤田さんのお話にあったように、たとえ手戻りがいくらか発生したとしても、それだけの想いを伝えていただけたことが私はむしろ嬉しかったです。それによりオリジナリティのある制度になっていきましたし、外に出したくないくらい良いものになったなと感じています。

深田 同感ですね。大げさではなく航空会社の人事制度は近い将来、同じような形になっていくのではないかなと思っています。女性の働き方や人手不足の問題に対応する施策としても有効な制度になっていますからね。

西岡 FMHRさんの知見を生かせたおかげで、胸を張れるような制度をつくることができました。今後は新たな人事制度を社内に広めていくステップへと入っていきますが、すごく良い評価方法なんだということを自信を持って説明していきたいなと思います。