株式会社タカラトミー

アソビに夢中になれる環境をつくりたい――“タカラトミー流ジョブ型人事制度”ができる まで

企業の新たな方向性と接続した人事制度をつくることができました

人財戦略室 室長

栗原 祥太

弊社の風土も踏まえたサポートをいただけたのがありがたかったです

人財戦略室 人財開発部 人財開発課 課長

山嵜 里美

若手社員からは昇格への積極的な姿勢が生まれ始めています

人財戦略室 人財開発部 人財開発課

千田 悌己

2024年、創業100周年を迎えたタカラトミー。子どもたちに愛される玩具をつくり続けてきた同社は、近年「アソビ」の開発に力を入れるなど新機軸の事業展開に挑んでいる。そうした中、積年の課題だった人事制度の抜本改定にも着手。独自の制度を策定するまでの道のりを、長期にわたって伴走したコンサルタントとともに振り返る。

評価に対する不満のくすぶりを受け、人事制度の抜本的改定へ。

FMHR 山﨑 はじめに、御社の概要についてあらためてご説明いただけますでしょうか。

千田 1924年にトミーの前身である富山玩具製作所が創設されたのが弊社の出発点です。飛行機玩具を主力商品に据えて拡大し、プラレールやトミカなど、現在も愛されている人気商品を世に送り出してきました。一方で1955年には、タカラの前身である佐藤ビニール工場所が設立され、リカちゃん人形や人生ゲームに代表されるヒット商品を生みだしつつ、総合玩具メーカーとして発展しました。2006年、タカラとトミーは互いの強みを最大限に発揮すべく合併し、「タカラトミー」が誕生。世界一の玩具メーカーを目指して歩んでいくこととなりました。私たちの提供価値はカタチがないものも含めた「アソビ」であると再定義し、子どもたちだけでなく「アソビ心をもつ世界中の全ての人々」に向けて様々な事業を展開しています。

FMHR 山﨑 ありがとうございます。人事制度の改定について、最初に弊社にご相談いただいたのが2022年のことでした。改定に至った背景についても教えていただけますか?

栗原 2013年には希望退職者の募集をするなど経営状況が悪化した時期もありましたが、幸いにも業績を大きく回復させることができ、現在に至っています。その過程で人事制度の見直しを重ねてはいたのですが、まだまだ改善の余地は大きく残っていましたし、人的資本経営の重要性に目が向けられるようになるなど外部環境にも変化がある中で、「より良い制度に変えなければ」という課題感は強まっていました。私が人事部門に来たのが2021年。そのあたりから、いよいよ本格的に動きだすことになりました。

FMHR 堀井 以前の制度にはどのような問題があると感じていたのでしょうか?

栗原 一つは相対評価だった点ですね。相対評価では、周りの評価が高まることで、それに伴っておのずと評価が下がる人が出てきます。すると、どうして評価が下がったのか、納得のいくフィードバックをすることが非常に難しくなります。ともすれば、その人の良くないところを無理やり探しださなければいけなくなってしまう。それは制度としてどうなんだろう、という疑問が生じるのは当然ですし、私自身も事業部側にいたときはもやもやしたものを感じていました。また、管理職の評価においても、どれくらいの規模のマーケットの責任者であるか、どれくらいの規模の部下を抱えているか等で評価が決まるところがあったので、たとえ少数精鋭で高い利益率を実現したとしても、あまり評価に反映されなかったり……。若手から抜擢された管理職が評価されにくいような仕組みにもなっていました。

山嵜 評価制度に不満を持っている従業員は多かったのではないかと思います。人事部門としては「変えなければ」という気持ちがある反面、どのような制度にすべきかという社の方針がなかなか定まりきらなかったこともあって、パッチワーク的な見直しに留まっていたという状況でした。

アソビづくりに“自走的に”夢中になれる制度を目指して。

FMHR 堀井 今回の改定にあたっては、どのような制度に変えたいと考えていましたか?

栗原 私たちは、従業員がアソビに夢中になれる会社であらなければならないと考えていますが、人事戦略上はそれをさらに一歩前進させ、アソビづくりに対して“自走的に”夢中になれるような環境をつくることを目指しました。弊社従業員のエンゲージメントはもともと高いのですが、自分の仕事がしっかり評価されたほうがやりがいは増しますし、人事に関する不満だとか、余計なことを考えないで済むほうがアソビづくりに対してより自走的に夢中になれますよね。そういう環境を生みだせるような制度にしたいと考えていました。

FMHR 堀井 人事制度の改定にあたり、なぜFMHRにご依頼いただけたのでしょうか?

栗原 まず前段として、私自身に人事戦略についての知見がまだ乏しかったですし、他社ではどんな制度になっているのかということも正直なところ、よく分かっていませんでした。そこで、数年前から教育体系の策定や研修でお付き合いのあったFMHRさんに、藁にも縋る思いで相談させていただいていました。その後、経営陣から、有名な外資系コンサルを使ってはどうかという話も出るようになったのですが、私はあまり前向きではなかったんです。事業部にいたころ、そうしたコンサル会社とのプロジェクトに参加したこともありましたが、最後のところで「やるかどうかは御社次第です。なお結果に対する責任は負えません」というスタンスでしたので……。私としては、タカラトミーの内部的な事情、風土や雰囲気みたいなものも含めて理解していただいたうえで、離陸してから安定飛行に入るところまで伴走していただけるようなパートナーとご一緒したいと思っていました。そうなると、おのずと一番の候補に挙がってきたのがFMHRさん。経営陣に対しては「私に制度改定を進めよとおっしゃるのなら、FMHRさんと組ませていただきます」と言って押し切ったんです。

FMHR 堀井 そこまで言ってくださったとは、本当にありがたいお話です。制度改定の道のりを振り返っていただき、ご苦労された点、印象に残っていることなどがありましたら教えてください。

千田 役員会議のときなど、想定していなかったトピックで議論が盛り上がってしまうこともあったのですが、そういうときにFMHRさんがしっかりと話を本線に引き戻してくださったなというのが印象に残っていますね。人事部門だけでやっていたときは、その日一番確認したかったポイントの話をする前に時間が来てしまうようなこともありましたから。

山嵜 先ほど栗原の話にもありましたが、弊社の風土まで理解したうえで会議の準備などをしてくださったのはありがたかったですし、実務の面でも手厚くサポートしてもらったと感じています。新しい制度をグループ会社にも適用するためにシミュレーションを行う必要があったのですが、なかなかうまくいかなくて。そういうときも親身に話を聞いてくださり、どうすればいいか具体的に教えていただくことができました。FMHRさんのご支援がなければ、新制度をスタートさせるまですごく時間がかかっていたのかなと思います。

ジョブ型人事をどのようにタカラトミーの中に落とし込むか。

栗原 確かにスケジュール管理については、これも弊社側の事情でいろいろと動きがあった中で柔軟にご対応いただきました。新制度が固まってきたころに新社長が就任し、それに先立ってパーパスの発表というイベントもありました。企業として新たに示した方向性と接続した制度になるように、ギリギリまでうまくチューニングしていただきました。

FMHR 堀井 私どもとしても、様々な事情で修正を迫られたときにどこまで飲み込むか、その代わりどこは譲れないのか、メリハリをつけながら対応させていただいたつもりです。ただ、新制度を完成までもってこられたのは、栗原さんの突破力が何より大きかったと思います。特に、経営陣から提案されていたジョブ型の概念をどんなふうに落とし込むのかという部分が象徴的でした。

栗原 欧米流のジョブ型人事をいきなり弊社に持ち込むのはさすがに難しいと考えました。検討を重ねた結果、「開発」「生産技術」「品質管理」「マーケティング」「営業」「ロジスティクス」「コーポレート」という7つの機能に切り分け、それぞれに必要とされるジョブを定めたうえでスキル評価する“タカラトミー流ジョブ型人事制度” という形になりました。また、以前は管理職を目指すというキャリアアップが主流でしたが、各職種で高い専門性を発揮することで管理職と同等処遇の「専門職」を目指せるような複線型の制度に改めたところもポイントです。相対評価の廃止とジョブに応じた評価軸の導入で公平性を図った、というのが大きな考え方ですね。

FMHR 山﨑 ちょうど運用が始まったところかと思いますが、新しい制度に対する社内の評判はいかがですか?

山嵜 同時に導入した出産育児祝い金制度が注目を浴びて取材もたくさん受けたのですが、社内的な反応でいうと、従業員が新制度による変化を感じられるのはまだこれからなのかなという感じですね。もう少しすると新しい評価が給与の支払いに反映されるので、そのタイミングが来ればいっきに実感が湧いてくると思います。

千田 新しい制度では、基幹職がG1、G2、G3という3等級に分かれていますが、G2からG3に上がるところで比較的大きな差が出る仕組みになっています。それもあって、若手の間では「まずはG3を目指そう」という声が出るようになってきています。

山嵜 新たにパスができたことで「専門職を目指そう」と考える人も増えてきていると思います。ただ、昇格していく人がいる反面、追い抜かれてしまったという感覚を持つ人もどうしても出てきてしまう。人事としては、そういう声にも向き合いつつ、理解を深めてもらえるような努力をしていくことが必要だと感じています。

栗原 全員にとっての正解を出せるものではない、というのが人事制度の難しいところですよね。でも、会社がその能力を認めた人材が昇格していくということは健全なあり方だと思いますし、相対評価をなくしたり、所属部署と求められるスキルのミスマッチを解消したりと、不満の根本原因になっていたものを解消する制度になっています。そこに関しては従業員の多くが喜んでくれていると思います。

FMHR 堀井 馴染むまで多少は時間が必要かもしれませんが、他社と比較してみても独自性が強く、かつ合理的な制度になっていると私も思います。また運用の面などでお困りのことがあれば、遠慮なくご相談いただければ幸いです。

※内容およびプロフィールは取材当時のものです