スミセイ情報システム株式会社
社員の自律的成長支援を! 実践型1on1フィードバック
下から支える育成スタイルに転換していくことが必要
常務執行役員 人材開発本部長
赤松 実
部下への質問の仕方がかなり変わったのでは
損保システム部 損保第2グループ長
杉山 朋江
住友生命保険グループの情報システム基盤を支えるスミセイ情報システム。 社員の自律的成長を促すため、同社が活用しているのが1on1だ。 その質を向上させるフィードバックプログラムの手応えを語り合った。
社員の成長支援をどのように行うか
FMHR 金田 このたび、御社にて「実践型1on1フィードバックプログラム」を実施させていただきました。まずはその背景を、簡単な会社概要と合わせてご説明いただけますか。
赤松 弊社は住友生命保険を親会社に持ち、同社グループ全体の情報システム基盤を長年にわたり支えてきました。また、他社からもシステム開発などを受託しております。今回の取り組みに至った背景としては、第一に、社員の成長支援をどのように行うかという点に従前から問題意識があったことです。毎年行っているストレスチェックの結果で、社員の「エンゲージメント」に関し、特に若手層について「仕事への自信」といった因子に課題がある傾向にありました。また、コロナ禍において在宅勤務が採り入れられ、社員が上司・先輩とコミュニケーションを取る機会はおのずと減っています。そうした状況のなか、どのように社員の成長を支援できるだろうかと考えていました。
FMHR 金田 上司からの指導による育成ではなく、社員の “自律的成長支援” を行いたいとの思いがあったのですね。
赤松 そうです。当社ではこれまではどうしても、上司から部下に「上から」知識・スキルを付与するような形の育成になっており、結果的に自律性を育むことを阻害していた面があった、と考えました。DX 時代を迎え、価値創造型人材が求められていることも踏まえると、上司が「横で寄り添う」、または「下から支える」ようなスタイルに転換することが必要。それを 1on1 の面談を活用しながら実施したいとの思いが、今回の取り組みにつながりました。
FMHR 金田 弊社を選んでいただけたのは、どのような理由だったのでしょうか。
赤松 コロナ禍におけるコミュニケーションといったテーマで、いろいろなコンサル会社がセミナーを行っていて、私も積極的に参加しました。そのなかで、私どもが取り組もうとしていることの根幹の考え方を示してくださったのが FMHRさんだったのです。金田さんに相談に乗っていただくようになり、かなり突っ込んだ話ができる関係性になりました。弊社の実情をよくご理解いただいておりましたし、「何かいい提案はないですか?」と投げかけさせていただきました。
FMHR 金田 その際に弊社から実践型1on1フィードバックプログラムをご提案しました。上司と部下によるオンラインの1on1面談に私が同席し、コミュニケーションの改善点を指摘させていただくという内容だったわけですが、どのように受け止められましたか。
赤松 正直なところ、斬新なご提案だなと非常に驚きましたね。でも、そこまでやらないと効果は出ない。講義やロールプレイングだけでは、職場に戻ったところでそれがどれだけ活用できるかというと、疑問符がつきます。これはチャレンジしてみるべきだと決断しました。
FMHR 金田 当事者間ではコミュニケーションの問題点になかなか気づけないものです。御社の課題を解決するには、第三者が割って入るしかないのではないかと考え、思いきって提案させていただきました。実際の業務に第三者が関与することになるので、心理的なハードルが高くなるのはやむを得ない。それでも受け入れてくださったのは、赤松さんの強い思いがあったからこそだと思います。
1on1で起きた部下の行動変容
FMHR 金田 まずはトライアルという形で8名の上司の方を選抜していただいてプログラムを実施し、その後、第2期として20 名の方にご参加いただきました。その1人が杉山さんでしたね。取り組まれてみて、いかがでしたか。
杉山 部下と話しているところに人が入ってくることはほぼありませんので、どういうふうになるんだろうな、と……。実際にやってみたときも、最初は違和感が強かった。でも、面談の最中はZoomの画面はオフにしてくださっていましたし、それほど気になりませんでした。
FMHR 金田 事前に本プログラムについての研修を受けていただいたうえで、実際の面談は3回行いました。回を重ねていくごとに変化を感じましたか?
杉山 事前の研修で教えていただいことが、1回目の面談では全然できなくて。話している最中から混乱してしまいました。面談終了後のセルフフィードバックとして用意された5つの質問にも答えることができなくて。特に印象的だったのは「部下は何が言いたかったのか」という問い。それを見たときに「あれ、私が言いたいことを言っただけじゃないか」と気づかされました。
FMHR 金田 そうでしたね。あのときは余分に時間を取って、どうしてそうなってしまったのかを説明させていただきました。
杉山 そのおかげで落ち着きを取り戻せて、自分に何ができていなかったのかを理解することができました。2回目以降の面談では「部下のやる気スイッチを探す」というテーマ設定をしたところ、私から部下への質問の仕方などもかなり変わったのではないかなと思います。
FMHR 金田 杉山さんの質問の仕方が変わったことで、行動が変わった部下の方もいらっしゃいましたね。とても印象的でした。
杉山 私自身、びっくりしています。金田さんからのアドバイスもあって、過去の経験を聞き出しながらやる気スイッチを探してみることにしたのです。これまでやってきたことの中で、何が楽しかったのか。そう尋ねると「システムの設計が楽しかった」と。そこから「新しいシステムや技術の開発に挑戦したい」という思いを引き出すことができました。今では社内の新技術の勉強会などに自分から参加するようになりました。
確かな手ごたえと新たな課題 部下にもインプットが必要
FMHR 金田 まさに自律的な行動ですよね。ほかの部下の方に関しても、杉山さんが思い込みをしていたということに気づかれて、以前とは異なるような話の展開をするようにしたら、部下の反応が変りました。部下の側が「自分のことをちゃんと見てくれている」と感じたからこそでしょう。
杉山 今回のプログラムを通して、準備の大切さもあらためて感じました。アジェンダシートをお互いに用意し、この面談の目的は何なのかということを事前にすり合わせておく。そのステップを飛ばすと、ただの進捗確認や、こちらが聞きたいことを聞くだけで終わってしまいます。
FMHR 金田 準備の有無で、面談の時間の質は劇的に変わりますからね。赤松さんは、参加者のアンケート結果などもご覧になり、どのような感想をお持ちですか。
赤松 ポジティブな回答が多く、やってよかったなと思っています。一方で、新たな課題も見えてきました。今回は上司を対象にしたプログラムでしたが、部下の側にも何らかのインプットがあるべきなのではないかと思うようになりました。
杉山 私も同感ですね。何のための1on1 面談なのかという点で共通理解を持てていれば、効率的になりますから。
赤松 もう一つ、見えてきたことがあります。社内には杉山のような「グループ長」がいて、その上の上司に「部長」、更には「役員」がいるわけですが、1on1 というのは比較的新しい概念ですから、この上司層は 1on1 を受けた経験がないんですね。そうなると、受ける部下の側の気持ちがなかなか理解できない。
FMHR 金田 なるほど。
赤松 そこで、ひとまず人事部門の中で、ちょっとした実験をしているところです。私が配下の「部長」に対してまず半年ほど 1on1 を行って、「部下としての1on1」を経験させてみる。その経験を踏まえて、その「部長」は部下に対して1on1を実施してみる。そうすることで、「部下としての1on1の経験」が、「部下への1on1にどう活きるか」、感想を聞いてみようかと。それが活きるようなら、ゆくゆくは全社的にこうした動きを広めていけたらいいなと考えています。
FMHR 金田 すばらしいですね!1on1の目的の根幹は、組織開発。それは一朝一夕にできるものではなく、年単位で時間がかかります。赤松さんのような思いのある人が中心となり、周囲を巻き込みながら変わっていく。まさに本質的な取り組みだと思います。また、何かお困りの際はぜひお力添えさせていただければ幸いです。
*内容およびプロフィールは取材当時のものです