スカパーJSAT株式会社

スキルの可視化を起点とした“戦略人事”で、変革に挑む ――スキルマップの構築と「常駐型」運用支援プロジェクト

常駐コンサルタントからの「問い」が課題に向き合わせてくれます

経営管理部門 人事部 部長代行

大田 慶子

「社員にとって実践的で有用なものになっているか」という観点を大事にしました

宇宙事業部門 経営企画部 統括チーム マネージャー 兼 宇宙事業部門人事担当

山内 祥弘

スキルマップをどう戦略的に活用していくかが今後の課題です

メディア事業部門 経営企画部 部長代行 兼 メディア事業部門人事担当 兼 経営管理部門 経営企画部

小林 勇

宇宙事業とメディア事業の二本柱で支えられているスカパーJSAT は、通信技術の進展などに伴う外部環境の変化の中で、変革の歩みを着実に進めている。人的資本強化の重要性にも着目し、2023年にスキルマップ構築の取り組みがスタート。翌年より運用フェーズに入り、今後はスキルマップを起点とした戦略的な動きにつなげたい考えだ。プロジェクトのこれまでの歩みと今後について、キーマンたちが語り合った。

事業環境が厳しさを増すなか人的資本の強化に着手

FMHR 金子 はじめに、御社の概要についてあらためてご説明いただけますか?

山内 弊社は2008年に、スカイパーフェクト・コミュニケーションズとJSAT 、宇宙通信が合併して誕生した企業で、事業としては宇宙事業とメディア事業の2つに大別できます。 宇宙事業では通信衛星を活用した様々なサービスを展開し、メディア事業では、有料多チャンネルプラットフォーム「スカパー!」を軸に、放送や配信等の事業を展開しています。

FMHR 金子 それぞれの事業は、現在どのような状況にあるのでしょうか。

山内 宇宙事業のことについて申し上げると、90年代頃までは大容量の通信を行う手段は衛星しかありませんでしたが、今では通信技術が発達し、スマホで世界中と通信することが可能になりました。また、衛星コンステレーションの登場など、競合が増えてきています。私たちとしても、お客様に選ばれる、より良いサービスを提供していかなければ勝ち残れないような事業環境になっています。

小林 メディア事業は、1996年に現在の「スカパー!」の前身となる「パーフェクTV!」を開局したのが始まりです。2012年には加入者数が380万件に達しましたが、それをピークに減少傾向にあります。その収益減をカバーするべく周辺事業に取り組んだり、効率化を進めたりしていますが、なかなか厳しい局面を脱しきれずにいるというのが実情です。

FMHR 金子 そうしたなかでスキルマップの構築に着手されたのは、どのような経緯だったのでしょう?

大田 両部門とも、事業環境が大きく変わっていくなかで、人財をどう活かしていくべきかという課題感がありました。当社の人財育成体系は、階層別研修のように所属組織にかかわらず等級や年次に合わせた一律の研修を実施する形をとってきましたが、2020年頃にジョブ型雇用の議論がされるようになったことで、あらためて個々の事業の戦略に合わせた人財育成・能力開発が必要だと考えるようになりました。事業に必要なコアスキルは何かを特定していこうと社内でヒアリングを重ねたのですが、当時、自分たちの力だけでは、当社のコアスキルを浮き彫りにするところまではやりきれませんでした。

小林 現社長が就任した2019年頃から、変革の動きが活発化してきたというのも背景にありますね。その一環として人的資本の強化にも取り組むことになり、今回のスキルマップ構築への流れができていきました。

ヒアリングで細部を聞き出し、社内文書にも書かれていないスキルを言語化

FMHR 堀井 スキルマップ構築に対して、どのように取り組もうとお考えになったのでしょうか。

山内 ジョブ型の議論をしていた時期に考えていたことですが、当社の人財戦略はまだ中小企業的なところがあります。要するに、経営者は少なくとも自部門の人材に関しては、誰がどんなスキルを持っているのか、直感的に分かるというような世界観だったわけです。でも、それでは能力開発や部門を超えた配置転換、将来を担う人材の発掘といった動きにはつながりにくい。当時からコアスキルをきちんと定義して、社員の保有スキルを表現するマップのようなものをつくりたいという思いはずっと残っていました。そこでプロジェクトとして具体的に動き出すにあたり、外部の力を借りよう、伴走してくださる方を探そうと考えました。

大田 弊社の人事部長がFMHRさんのセミナーに参加したことが、ご相談させていただくきっかけになりました。そのときのテーマがちょうど「スキルマップ構築」に関するものだったと聞いています。帰ってくるなり「良さそうなところを見つけたよ」と。ほかのコンサルティング会社も含めてコンペを実施させていただきましたが、FMHRさんはスキルマップ構築の実績も豊富にお持ちということで、お願いすることにしました。

FMHR 堀井 ありがとうございます。確かに、このところスキルマップに関するご相談をいただくことは非常に増えていますね。実際に取り組まれてみた感想としては、いかがでしたか? ご苦労された点や気づきなどがあれば教えてください。

小林 部長やチーム長へのヒアリングを行っていただき、私もその場に立ち会わせていただいたのですが、社内の各部署の業務内容や、その仕事に臨むスタンス、必要なスキルなどをここまで細かく聞いたことはなかったので、個人的には非常に新鮮な思いがしました。それと同時に、社内文書にも書かれていないようなことがたくさんあるということが分かりましたし、そうした事柄をこの機会に言語化することの価値を再認識しました。ヒアリングを受けた社員も、時間をオーバーしたり、ときには悩み相談のような感じになったりすることもあったぐらい、心を開いていたのが印象的でした。堀井さん、金子さんが話しやすい雰囲気をつくってくださったおかげだと思います。

山内 ヒアリングを進めていく過程で、経営と現場の意識にズレを感じましたね。当社のビジネスは多くのエンジニアの技術に支えられており、エンジニアの中には特定の技術領域の仕事に特化してきた職人のような社員もいます。それ自体は悪いことではありませんが、会社を俯瞰して見えていない部分があるということでもあると思います。例えば、「10年後に向けてどうしていくべきか」といったことを、自分事として具体的に考えていないかもしれません。でも、それでは会社のケイパビリティは弱くなっていってしまいます。部長やチーム長は経営戦略を部のビジョンやミッション、パーパスに落とし込むなど、経営と現場が足並みを揃えていくための作業を惜しまないことが大事だ、とあらためて感じました。

コンサルタントがクライアントのオフィスに「常駐」。そのメリットとは?

FMHR 金子 私が難しさを感じたのは、皆さんがこだわりたい部分と、現場での使われやすさとのバランスをどうとるかというところが1つ。それから、スキルとナレッジをどう捉えるべきかという部分も難しい課題でした。例えば「衛星の軌道のずれの原因を究明できる」というのは、スキルなのか、それともナレッジなのか。そういう微妙な線引きをしなければいけないことが多くて。

山内 スキル、能力、経験値、知識、コンピテンシーといった似て非なるものをどう整理するかはとても難しいですし、やり始めたらキリがないところもあります。今回のプロジェクトでは、「社員にとって実践的で有用なものになっているか」という観点を大事にしました。結果的に、抽出されたナレッジや経験値の整理はいったん保留にし、ベーシックスキルとマネジメントスキルの部分を優先して定義づけすることにしました。

FMHR 堀井 ベーシックスキルの上に細かなナレッジが乗っかることで、現場で使える専門スキルになる、というイメージかなと思っています。ベーシックスキルはあるのにナレッジが足りないならナレッジを強化すればいいし、ナレッジが先行している場合はベースとなるスキルを鍛えればいい。そういった組み合わせの考え方が柔軟にできるようになるといいですよね。

FMHR 金子 スキルマップの構築にひと区切りがつき、現在は運用段階へと移っています。そのフェーズでは、私が週2日、御社のオフィスに勤務させていただく“常駐型”の伴走を行うことになりました。こうした形を選択されたのはなぜだったのでしょうか。

大田 当社は2023年4月に人事制度を改定しました。人事制度は「どう運用していくか」が重要ですが、FMHRさんには当社の中に入ったうえで社内の課題をリアルに感じていただきつつ運用面のサポートをしていただけたらと考えました。こうした“常駐型”というメニューもあるというご案内いただいて、「ぜひ!」という気持ちでお願いしました。金子さんに来ていただくようになって半年ほど経ちますが、第三者の目線から組織や施策を見ていただいてフィードバックをもらえることはとてもありがたいと感じています。金子さんから「なぜ」の問いを投げかけていただくことでハッとすることが多いんです。人事部長や他の人事部メンバーも、金子さんの問いをきっかけに課題の本質にあらためて向き合い、深く考えるといった場面がよく見られますね。

FMHR 金子 皆さんが「思ったことがあれば正直にどんどん言っていいよ」とおっしゃってくださるので、私も感じたことをできるだけお伝えするようにしています。やり過ぎてないかという点は自分でもちょっと心配なのですが……。

大田 大丈夫。まったくそんなことないですよ(笑)。

スキルマップを人事戦略と絡めつつ、どう活用していくべきか

FMHR 金子 スキルマップの運用の面で、大変だったところは何かありますか?

大田 タレントマネジメントシステムに実装させるところは、かなり細かい調整が必要で、苦労した部分ではありました。大変だったことも多いのですが、スキルチェックが始まり、データが蓄積されていく中、手応えを感じつつあります。説明会を重ねてきた効果もあると思いますが、「どのように入力すればいいのか」とか「何のためにやるのか」といったような問い合わせは想定していたよりも少ないように思います。また、タレントマネジメントシステムのスキルチェック画面には、部下が記入した内容に対して上司がコメントを入れるスペースを設けてあるのですが、そこでのやりとりを見ていると、プロジェクトで定義づけた各スキルが共通言語として使われ始めています。スキルを用いた具体的な能力開発が進められている様子に、これはすごく良い兆候だな、と感じています。

FMHR 金子 今後に向けてのお考えも、ぜひお聞かせいただければと思います。

小林 今回のプロジェクトを通して「現状の可視化」という最初のステップをクリアできたところだという認識です。私たちは“戦略人事”と呼んだりもしていますが、このスキルマップをどのように戦略的に活用していくかが今後の課題。大きな戦略を描きつつ具体に落とし込んでいくことになるかと思いますが、どの方向に向かうべきなのか、その先に本当に成功があるのかといったことは、まだ明確にしきれていません。引き続きFMHRさんのご支援をいただきつつ、私たち自身で答えを出していかなければならないと考えています。

山内 今回のプロジェクトで構築したスキルマップは、あくまで「バージョン1」だと考えています。ナレッジや経験値の整理も含めて精度を高められる余地はまだまだ残っていますし、運用の面でも、実態をよく見ながら改善の努力を続ける必要があると思います。FMHRさんにお力添えいただいて、長年動かなかった岩が転がり始めたところなので、それを止めないように、むしろ加速させられるように頑張らないといけないなと思っています。

大田 スキルマップを人事戦略に活用していくという今の流れを根づかせ、当たり前にしていくことが重要だと考えています。現状は、人材の育成や能力開発に活用できるという感触を得ているところですが、その次のステップとして、人材の配置・異動、または人材の発掘などにもうまく使っていきたいなと構想しています。

FMHR 金子 当初思い描いていた形に、着実に近づいてきていますね。

大田 企業における従来の人事異動は、勘と経験であったり、上層部の意向に左右されがちな面もあったと思いますが、そういうものとは違う“根拠”となりうるものの一つがスキルだと思うんです。社員にしてみれば、自分がやってみたい仕事や経験したい部署を考える際に「この部署で仕事するためにはどんなスキルが必要なのか」ということが可視化されていて事前にわかっていると、目指すキャリアに向けた能力開発のモチベーションになると思います。それは企業側にとっても歓迎すべきことですし、適切な人材配置などにつながっていくメリットがあると思います。2023年度に改定した人事制度でも掲げているテーマでもありますが、会社の目線と社員の目線がよりマッチした形をつくっていけるといいな、と考えています。

FMHR 金子 私がすぐそばにおりますので、またいつでもご相談いただければと思います! 本日はありがとうございました。

※内容およびプロフィールは取材当時のものです