三井住友カード株式会社
年功序列など旧来的な枠組みを撤廃。多様な人材の活躍を促す人事制度へ
「つくって終わり」ではない柔軟に変えていくことが大切
人事部 部長代理
森 達哉
社会状況の変化に応じてより柔軟な制度に
人事部 部長代理
安倍 靖人
社員の前向きな姿勢につなげていきたい
人事部 部長代理
高尾 良照
SMBCグループの一角をなす「三井住友カード」が、人事制度を刷新した。 経営と現場、双方の声に耳を傾け、悩みながら歩んだ2年半。 その過程と新制度のポイントを、プロジェクトに携わった5人が語り合う。
社会状況の変化に合わせ人事制度を抜本改定
FMHR 山田 まずは、人事制度の抜本的な改定に至った背景を教えていただけますか。
安倍 旧制度の運用は2003年に始まりました。その後10数年の間に課題となっていた点は、主に2つあります。1つは処遇面で、階層給と職務給の2つで構成された年功序列型の制度になっていたこと。もう1つは、職種に関して、総合職・エリア職・一般職という形で明確に線引きされていたことです。私どもとしては、社会状況の変化に応じてより柔軟な制度にしつつ、社員の意識を変革していく必要性があると感じていました。
森 クレジットカード業界は“装置産業”とも言われるように、既存業務をつつがなく回すことで順調に成長できると考えられてきました。ただ近年は、キャッシュレス化やそれに伴う競合の台頭などが起きています。専門人材の活用や中途採用などの必要性も高まっており、多様な人材が、より幅広い領域で活躍できる人事制度を目指すことになったんです。
FMHR 山田 制度改定にあたって弊社にコンサルティングをご依頼いただけたのは、どのような理由だったのでしょうか。
安倍 旧制度の部分的な改定を行った際にお手伝いいただいた経緯があり、弊社の人事制度に対する考え方や内情をよくご理解いただいていたことが理由の1つです。FMHRさんは、コンサルにありがちな、一歩離れたところから提案だけして「あとは御社で」と丸投げする形ではなく、同じ人事部企画グループの一員として一緒に検討する。そういう姿勢で取り組んでくださることも存じ上げていたので、ぜひお力をお借りしたい、と。
FMHR 野澤 ありがとうございます。改定までの過程を振り返ると、いちばん苦労したのはどのあたりですか?
森 大きな方向性は最初から見えていたのですが、どこまで踏み込んで制度に落とし込むかというところが大変でしたね。社としての経営戦略を実現する役割を担いつつ、運用可能な制度でなければ意味がない。トータル2年半ほどのプロジェクトでしたが、そこが定まるまでに半分以上の時間を要したようなイメージです。
FMHR 山田 たしかに。社内調整にはかなり苦労されているようでしたね。突破口になったのが、「ビジネスレベル(以下BL)」と「ディビジョン」を掛け合わせて業務遂行レベルを設定するフレーム(最終頁の図参照)のアイディアでした。
高尾 そうですね。まずBLは、社員が出した成果に応じて変動する、“脱年功序列”のメッセージも含んだ指標です。また弊社の場合は異動が多いため、職種ではなく、共通する業務の性質ごとにディビジョンという形で区分を設けました。縦軸のBL、横軸のディビジョンそれぞれを6つに分けることで、6×6=36パターンの業務遂行レベルが設定されるフレームです。これに当てはめれば、自分がどこに位置し、どんな目標を達成すべきなのかがひと目で分かるようになっています。
FMHR 山田 日本の伝統的なメンバーシップ型雇用と、欧米で普及し、日本でも広まりつつあるジョブ型雇用のハイブリッドと言えますよね。両者の良いところを融合させた、他社ではあまり見られない制度になっていると思います。
貫いた「現場」目線実務・運用を常に意識
FMHR 野澤 大枠が決まってからは一気にスピードアップした感があります。制度の詳細を固めていくなかでは、きちんと運用できるか、現場からどう見えるかを強く意識されていたのが印象的でした。
高尾 他部署の社員は、人事部に対してあまり良いイメージを持っていないことが多いと思うんです。制度を改定すると、根拠もなく「何か裏がある」と思われてしまいがち。良い制度になったということを、現場で働く社員にしっかり理解してもらいたいという思いがありますね。
安倍 新制度に対して、現場から「運用しづらい」「企画目線だ」と思われてしまってはもったいない。FMHRさんからは、そういう実務や運用面まで意識したご提案をいただけたのはすごくよかったなと思います。
FMHR 山田 私としては制度改定を何度も経験してきましたし、プロジェクト初期の段階から落としどころがある程度見えるものなんです。でも今回は、かなり踏み込んだ改定を目指されていたこともあって青写真を描きづらいところがありました。持っている引き出しをフル回転で開ける必要がありましたね。
森 でも、さすがだなと思わせられることは多かったです。案をご提示いただいたときは「ちょっと難しいかな」と感じるけど、よくよく検討してみると、結局は山田さんの案に行く着くことが多くて。メンバー間で「一周回って山田さん案だね」というコメントが出たことが何度かありましたよ(笑)。
FMHR 山田 うれしいお言葉ですね。プロジェクトの前半はそういう形で私が先行していた面があるかもしれませんが、後半になるにつれて変わってきたような気がします。「こういう制度にしたい!」という御社の思いがより明確になり、私がそれに対して「そこまでやって本当に大丈夫ですか?」とヒヤヒヤするようなことが多くなった。攻守が入れ替わったというか、コンサルとしての立ち位置は変わっていきました。
安倍 それでも同じ思考経路を共有できていたことは間違いないと思います。議論を重ねるなかで、真っ向から意見がぶつかり合うようなことはほとんどありませ んでしたから。
処遇を決める評価から育成にもつながる評価へ
FMHR 山田 今回の制度改定には、ほかにもポイントがいくつかありましたね。担当職務における成果と、SMBCグループとしての理念である「Five Values」に基づいて多角的に評価する「パフォーマンス評価」。上司と部下のコミュニケーションの質を担保し、評価に対する納得感を醸成する「1on1ミーティング」。そして、評価を人材の育成にもつなげていくための「キャリアミーティング」。それらの点が今回の改定の新しさなのだと思います。
森 さすが山田さん(笑)、仰る通りです。たとえばキャリアミーティングについては、旧制度ではあくまで本人の処遇を決めるための評価というイメージが非常に強かった。そこで、成長・育成のための評価にしたいとの思いを実現する制度として策定したものです。期末の評価時にマネジメント層にてキャリアミーティングを実施し、社員一人ひとりの良い点や課題を共有したうえで育成計画を策定します。加えて「プレイヤーとして優秀だから、グループ長、部長へと出世していく」という単一のルートではなく、本人の希望に応じてキャリアパスを多角化するのも狙いの一つですね。全体として、コミュニケーションの機会を増やし、上司と部下が一緒になって育成を考える制度になっています。
FMHR 野澤 2021年7月から新制度の運用が始まったところです。今後の課題は見えてきましたか?
高尾 私たちが思い描いていたコンセプトを落とし込めた制度ができたので、どこまできちんと運用できるか、そこがすべてだと思います。安定して昇給していく年功序列型からの転換に対して不安の声があるのもたしかですが、各自が積み上げてきた知識や経験を生かして活躍すれば、評価に反映される制度です。運用面でそれをしっかりと示し、社員の前向きな姿勢につなげていきたいですね。
森 まずは1年間、運用の成果を見極めたいと思っています。制度は「つくって終わり」ではないので、現場からのフィードバックも踏まえながら柔軟に変えていくことが大切だと考えています。
FMHR 山田 新制度運用にあたっての評価者研修も弊社にお任せいただきましたが、ここまで手厚く研修を行う会社は実はそう多くないんですよ。説明会のような形で終わってしまい、現場理解が不十分なまま、得たい効果を得られないケースもあります。高尾さんが仰ったように、社員の皆さまから「良くなったね」と言われる制度になるよう、私たちも引き続きご協力させていただければ幸いです。
※内容およびプロフィールは取材当時のものです