CASE

株式会社ポニーキャニオン

“全コンテンツ時代”を乗り切るために――人事評価制度改定の道のり

良い制度をつくれたと確信しています

経営本部 経営企画部 経営企画グループ マネージャー

檀原 由樹

問題点をズバッと指摘され、ありがたかった

人事総務本部 人事総務部 マネージャー

森 ひとみ

総合エンタメ企業のポニーキャニオンは、事業環境の激変に対応すべく、人事評価制度の改定を進めてきた。そのプロジェクトの各フェーズを力強く支援してきたコンサルタントとともに、取り組みの軌跡を振り返る。

事業環境の変化をにらみ、人事評価制度の改定に着手

FMHR 金子 御社が進めておられた人事評価制度の改定について、私どもFMHRがご支援をさせていただきました。まずは、制度の改定に至った背景をご説明いただけますか。

檀原 弊社は、音楽や映像・映画、アニメなどのコンテンツを中心とした総合エンタメ企業です。ただ近年は、事業環境が大きく変化しています。以前はCDやDVDといったパッケージの販売だったものが配信という形に変わったり。今や誰もがコンテンツをつくり、発信できる“全コンテンツ時代”でもあります。そうした状況に合わせて私どもの事業も多様化しているなかで、旧来の制度のままではいずれ立ち行かなくなるだろうと考えました。

FMHR 金子 そこで、エンゲージメントサーベイを実施されたんですよね。

檀原 はい。全社的な声を可視化しよう、と。その結果、評価制度と給与制度に課題があることが浮き彫りになり、重点的に取り組んでいくことになりました。

FMHR 金子 評価制度の改定に着手するにあたり、おおもとになる人材像や行動指針をどう描き出すか。そのあたりが最初のテーマでした。

ちょうど、ポニーキャニオンの長期ビジョン「VISION2030」の策定に取り組み始めたタイミングでした。評価制度も、「VISION2030」も、核となる人材像を定義する必要があるという点でリンクする。そこでFMHRさんにお声がけさせていただきました。

FMHR 山田 最初の接点は、その数カ月前でしたね。人事系システムを整備する案件のコンペに参加させていただいたのですが、そのときは受注に至らず……。

檀原 私は山田さんがやっておられるウェビナーをずっと拝見していて、いつかご一緒したいと考えていたんです。システムの件は他社に依頼する形になりましたが、あらためて制度改定のほうでお願いすることにしました。

山田さんに初めてお会いしたとき、どんな質問に対してもすごく分かりやすくお答えいただけたことをよく覚えています。当時の私は人事総務の経験が浅く、コンサルの方とお話しするとなると身構えてしまうところもあったのですが、山田さんには何でも質問できるような感覚がありましたね。

FMHR 山田 ありがとうございます。その人材ビジョンですが、社内的に活用するだけでなく、対外的に発信して、ブランディングにも生かしたいというお話でした。

これまで、弊社として理想とする人材像をはっきりと示せていませんでしたし、ブランディングがヒットコンテンツに左右されるところが大きいとも感じていました。10年後、20年後を見据えて、どういう会社でありたいのかを考え、その根幹を今のうちにつくっておくべきだと思ったんです。

「恥ずかしいと感じるのは、本当の姿だから」

FMHR 山田 最初、課題感を把握するために、各部署の代表の方たちの思いが綴られた資料を大量にいただきました。すごく熱量を感じる一方で、多種多様な意見が混在していたので、社内だけでまとめるのはかなり大変だろうな、と。

檀原 本来なら、もっと整理してから送るべきだったのですが、つくり込んでいる私どもは頭が過熱しているような状態で、もはや客観的な判断ができなかった。FMHRさんは要点を的確にとらえたまとめ方をしてくださいました。それがあったからこそ骨子を固めていくことができたので、とても助かりました。

問題点をズバッと言ってくださるのもありがたかったですね。人材ビジョンを作成しているとき、弊社側から「ドキドキ、ワクワク」「剛速球」といったフレーズが出てきて、私たちはそれに対してどこか恥ずかしいような気持ちがあったんです。そのことを伝えたら、「恥ずかしいと感じるのは、それが自分たちの本当の姿だから。大事にしたほうがいい」と言っていただいて。

FMHR 山田 最終的には「キュート」という表現に行き着きましたね。人材ビジョンをつくるときに最も大切なのは、カッコいい横文字とかではなく、社内でよく使われている言葉、なじみのある言葉を使うこと。極力、御社らしい言葉を残す方向でアドバイスさせていただきました。

FMHR 金子 その後、評価制度見直しのフェーズへと進んでいくことになります。印象に残っていることはありますか?

等級の定義を見直したときですね。山田さんが「まずいですね」と一言(笑)。

FMHR 山田 等級定義と実態がまったく合っていませんでしたから。評価項目と密接に関わってくるポイントなので、時間をかけて見直しました。

檀原 制度をつくるうえで、一見したときの分かりやすさやオペレーションのしやすさはすごく大事。ごちゃごちゃしていた等級定義をシンプルかつ本質的な言葉で整理していただけて、期待した通りの仕事をしていただけたなと感じました。

FMHR 山田 そこからさらに進んで、次は評価と報酬ですね。もともとの制度にはどんな課題がありましたか。

檀原 評価をベースに偏差値化する手法を採っていたのですが、そのやり方だと結果的に中央化して、評価が高い人もそうでない人も報酬にほとんど差が出ない状態になっていました。そもそもの評価の基準も不明瞭。今回の改定を機に、よりメリハリが利いた制度にしたかった。

FMHR 山田 長年の間に確立されてきたビジネスモデルがあるがゆえに、エンタメという業界のイメージとは裏腹に、オペレーティブな意識を持つ人材が増えている。そんな問題意識を抱かれていましたね。効率よく仕事を回せる人が高い評価を受けるような制度は、今後の事業環境を考えると行き詰まってしまう可能性が高い。強制ギプス的にでも相対評価を持ち込む必要があるな、と。どうしても現場からのハレーションはおきやすいのですが、そこに関しては事務局サイドに意思決定していただきました。

確かに一定程度の反応はありました。でも、何かを変えるときにはつきものだろうという認識でした。

檀原 エンゲージメントサーベイの結果に立ち返れば、評価がブラックボックスであることに対して不満が募っていたわけで。今回は、それが可視化されたことによってまた新たな反応が出てきた。それは私としては第一ステップだと考えています。今後は、見えるようになったものをどう改善していくのかを、評価者と被評価者が議論し合える風土をつくることが大事だと思っています。

評価調整会議にコンサルが同席。交わされた真剣な議論

FMHR 金子 それと合わせて、既任管理職向けの評価者研修と管理職候補者向けのマネジメント基礎研修を実施し、その内容を何度も見返せるように動画化もさせていただきました。振り返ってみると本当に盛りだくさんですよね。実際に評価を行う評価調整会議にも、山田が入らせていただいて。

FMHR 山田 いざ相対評価を行う段階になってからいろいろな問題意識が芽生えることはよくありますので、クレームが出たら一人称で受け止めないといけないという思いで緊張してその場に臨みました。実際に始まってみると、皆さん、真剣に部下の評価について議論を交わしておられました。こういう話し合いの場が少なくとも年に数回はあるべきだし、その大切さに気づかれた方も多いのではないかと思います。

そうですね。プロセスが明確化したことで、評価をする側、評価を受ける側ともに、責任感や当事者意識が芽生えてきているなと感じます。

FMHR 金子 続いて、期初の目標設定についてのワークショップも実施しました。こちらの感想はいかがですか?

檀原 すごく良かったですよ。良いサンプル、悪いサンプルを並べて見たことで、参加者はいろいろな気づきを得られたはずです。(上司の目標と担当者の目標が鎖のように関連し合う)連鎖の概念も新鮮でした。

目標設定の部分は私どももまだ自信がないところですし、ワークショップを通して目標設定と他の課題がつながってくることも見えてきましたね。

FMHR 山田 御社のように定性的な業務が多い企業の場合、連鎖した目標設定をするのはなかなか難しい。それでも皆さんは不満を言うこともなく、建設的な対話をさせていただけました。この新しい評価制度が定着する、そうしたカルチャーのある会社だなとあらためて感じました。

FMHR 金子 それでは最後に、今後の課題認識をお聞かせいただけますか。

檀原 FMHRさんにご支援いただきながら、すごく良い制度をつくることができたと確信しています。「点」がたくさんできましたので、目下の課題はそれを「線」にすること。社内での理解度をさらに上げて、会社のビジョンと結び付けられるような策を打っていきたいですね。

制度をつくって一安心するのではなく、檀原が申し上げたように、適切に運用し、浸透させることが大切だと思います。それと同時に、制度が今の時代に合っているかどうかという視点を持ち、常に見直していけるような態勢を整えることが必要だと思っています。

*内容およびプロフィールは取材当時のものです