コーセー化粧品販売株式会社

「エリア責任者」から「経営者」へ、支店長の意識とスキルを変革! ――大手化粧品販社における教育・研修プログラムを伴走支援

課題解決に向かう“道しるべ”ができたと強く感じています

専務取締役

鎌田 昌人

支店長がつくった戦略の意図が、支店全体に伝わりやすくなりました

営業管理部 人事グループ 人材開発課 課長

水野 嘉明

アウトプットの質の向上が研修の成果を物語っていると思います

営業管理部 人事グループ 人材開発課

坂下 海

「INFINITY」や「雪肌精」「Visée」などのブランドで知られる国内化粧品大手、コーセー。その国内販売の一手を担うコーセー化粧品販売(株)において、小売店との関係構築など重要な役割を担っているのが各支店の支店長だ。近年の市場環境の変化に伴い、支店長に求められる役割やスキルにも変化が必要と見た同社は、経営的な視点をインストールする教育・研修プログラムを実施。その取り組みの意義や感触を、コンサルタントも交えて聞いた。

市場環境の変化を痛感し、支店長の役割を再定義

FMHR 山﨑 はじめに、御社の概要をあらためて教えてください。

鎌田 弊社は、コーセーグループのコアカンパニーとして、国内の化粧品販売を担っている会社です。百貨店や化粧品専門店、ドラッグストア、量販店、バラエティストア、ECといった様々なチャネルを通して、コーセーが保有するブランドや商品を展開しています。店頭でお客さま一人ひとりに合った化粧品をご提案するビューティコンサルタント(以下BC)も、弊社に所属しています。

FMHR 山﨑 今回は、全国各支店の支店長様を対象とした教育・研修プログラムについて振り返っていただければと思います。こうした取り組みに至った背景は、どのようなものだったのでしょうか。

鎌田 私たちは小売店様と直接取引を行っています。それぞれの小売店様に親身に寄り添い、信頼関係を築くことを大切にしてきたのですが、旧来の手法だけでは通用しにくくなってきたことが背景にあります。コロナ禍に業績が大きく落ち込み、さらにアフターコロナといわれるようなフェーズに入っても、売上が一時、理想の回復速度とは異なる時期がありました。以前は、小売店様との信頼関係をある種のレガシーとして受け継ぎつつ慣例主義的にビジネスが成り立っていましたが、そういった状況を前にして、ビジネスのスタイルをアップデートする必要性を切実に感じるようになったんです。

FMHR 山﨑 そこで着目されたのが、支店長のスキルの強化だったんですね。

水野 はい。新しい市場環境に対応した明確なビジョンや方針を掲げる役目を担うのは、各エリアの支店ごとに在籍している支店長です。課題感を強く持っていた鎌田の大きな旗振りのもと、担当エリアの責任者という位置づけだった支店長を、そのエリアの“経営者”であると再定義し、そのうえで経営人材として必要な力を身につけてもらうための教育・研修プログラムを行うことにしました。

坂下 私たちとしては、仕事の進め方や成果の出し方に関する知見が、各支店長の属人的な暗黙知や経験則に留まってしまっていることにも課題を感じていました。消費者の購買行動を含め市場環境が激しく変化する時代だからこそ、それらを形式知化することが大事。そう考えたことも、教育・研修プログラムを実施することになった背景として挙げられるかと思います。

支店長は“スーパー営業マン”。教える側の難しさもあった

FMHR 山﨑 御社は研修を内製で行うことにも積極的に取り組まれていますよね。そうした中で、今回のプログラムに関して弊社にご依頼いただけたのはなぜだったのでしょうか。

水野 数年前に、コーセー本社のほうでBCの役割定義や処遇改善などの人事制度改定をご支援いただいていたことが大きかったですね。コーセーがどういう組織なのか、どういう人がいるのかというところまで把握されていましたし、実際、弊社が置かれている状況に合わせてカスタマイズされたご提案をしていただけました。

FMHR 山田 BC周りの制度改定には私も参加させていただきました。当時は、BCの皆様の活躍領域を広げることが主目的だったと認識していますが、今回のプロジェクトもそれに近いものだと思います。御社内における支店長の皆様の役割定義が変わった。つまり、先ほど水野さんがおっしゃったように、“経営者”として支店の経営戦略立案を担うところまで役割が広がり、それに伴ってこれまでと違うスキルセットが必要になったということですよね。

水野 そうですね。1つの支店を1人の経営者がしっかりと守っていく。大局的な捉え方をすると、以前の中央集権的なあり方から分散型の組織に変わろうとしている、とも言えるかもしれません。

FMHR 山﨑 大きな流れとしては、まずはレクチャー、次に支店長の皆様が今後使っていく「事業計画書」のフォーマットをつくり、さらにそれを実際に使って各支店の事業計画を立てるトレーニングをしていくという形で進みました。一連の過程を思い返していただきつつ、率直な感想を教えていただければと思います。

坂下 支店長は、経験と実績を積み重ねてきた、いわば“スーパー営業マン”です。一方で水野と私は、支店長の経験は無く、効果的な研修を企画・運営することはなかなか難しいものなんです。こちらが伝えることに対して、支店長が「本当にそうかな」「現場のことは自分のほうがよく分かってる」と感じるのは自然なことですから。そういう意味では、FMHRさんからお伝えいただけることをすごく心強く感じましたし、支店長の理解度、納得度がともに高くなったのではないかと思います。

水野 市場環境が変化する中で、自分が持っている引き出し、経験則だけでは通用しなくなってきていることを、支店長もある程度は感じ始めていて、今回のような研修を欲していたところもあったように思います。もし必要性を感じていなかったら、もっとアレルギー反応が出てもおかしくなかったのですが、そういうものはまったくと言っていいほど見られませんでした。

営業知見の体系化で、支店の一体感が醸成されつつある

FMHR 山田 研修の講師を務めさせていただいて感じたのは、やはり皆様が営業としての経験を豊富にお持ちだということ、一方でその経験が体系化されていないということの両方でした。すでに持っている知見を言語化できるようになると、部下の方たちに継承もできるし、支店長が何らかの方針を打ち出したときに、部下の方たちがその意図を汲みやすくもなる。知見を体系的に整理するためのフォーマットがあるだけで大きく変わるだろうなという感覚がありました。

FMHR 山﨑 私はアウトプットを確認させていただくことが多かったのですが、具体的な攻め方は丁寧に描けているのに、「なぜそうすることにしたのか?」についての説明が弱い方が多い印象がありました。それと、今回のプログラムで力を入れたKSF(重要成功要因)については、最初は設定する必要性に疑問を持たれていた方もいらっしゃったようです。でも、研修後に支店長の皆様がつくられた事業計画書を見せていただいたところ、懸案だったWHYの部分が明確にされていましたし、KSFもしっかりと意識したものになっていたので、すごくうれしい気持ちになりました。

坂下 確かに初期につくったものと見比べると、雲泥の差というか。事後につくった事業計画書には、山﨑さんが言われた通り「なぜやるか」について記述されていたのに加えて、「誰に対して」「どれくらいやるのか」といったところまでセットで表現されるようになっていました。その違いこそが今回の研修の成果なのだと感じています。

FMHR 山田 ワークショップのとき、どういう事業計画書であるべきかを議論している皆様の間に入っていって、その様子を拝見していると、「あ、体系化するというのはこういうことなのか」とどんどん理解し、吸収していく感じがすごく伝わってきました。そういう瞬間に立ち会えて、私も楽しかったですね。

水野 支店長が積み重ねてきたこと自体は、決して間違っていたわけではなかったと思います。だからこそ、それまで輪郭をもたなかったものが体系化され、言語化されていくプロセスを支店長自身も楽しめていたのかもしれませんね。結果として、支店長の戦略立案能力が大きく伸びたのはもちろんのこと、その考えが支店全体に伝わるようになったことで、部下に当たる販売部長やBCなどの戦略への理解度も上がってきて、一体感が醸成されてきたという手応えもあります。

FMHR 山田 今回の取り組みには、御社のご提案でBCを取りまとめる美容課長の皆様にもご参加いただきましたね。初の試みだったと聞いていますが、実際にやってみていかがでしたか?

坂下 美容課長にとってはかなり新鮮な体験だったと思いますし、戦略の領域に自分も関われることにやりがいを感じた人が多かったようです。支店長と、BCを束ねる美容課長、2人のベクトルを合わせ、同じ認識を共有する機会になったという意味で非常に効果的だったと思います。

戦略思考を支店長以外にも浸透させ、国内販社全体の強化へ

FMHR 山﨑 今、支店長の皆様が実際につくられた事業計画書に沿って支店経営にあたっているところかと思います。その様子をご覧になっていて、何かお気づきのことはありますか?

水野 会議での報告が大きく変わりました。すべての発言がKSFをベースにした戦略に基づいているので、説明がすごく分かりやすいんです。また、PLの概念を事業計画書に盛り込んだのも大きかったですね。売上だけでなく利益を高めようという意識が高まり、そのためには支店のリソースをどう割り振るのが最も効率的なのかということまで考えられるようになってきています。

FMHR 山田 まさに経営者ですね!

水野 おっしゃる通りです。今後は、支店長に対する権限移譲をどう進めていくべきなのか、という課題に取り組んでいかなければと思っています。

FMHR 山﨑 そのほかにも、これから取り組んでいきたいと考えていることなどあれば、ぜひお聞かせください。

坂下 事業計画とは何か、経営人材とはどういう意味なのかといったことを「理解する」フェーズは通過できたので、次は「成果につなげる」フェーズに入っていくことになります。私たち人事グループとして、それをどう促していくかを考えなければならないというのが1つ目の課題。もう1つは、支店長以外の人材に対するアプローチですね。もちろん立場によって粒度が異なってくると思いますが、経営視点・戦略視点をインストールし、みんなが同じ方向を向いて仕事ができる状態をつくることは支店の強化、ひいては国内販社全体の強化につながると思いますので、それを支えるのも重要な課題だと考えています。

FMHR 山﨑 コーセー様の国内販社としての新しいスタイルが、支店長の強化を起点に組織全体まで浸透していくといいですよね。たくさんのお話を聞かせていただき、ありがとうございました。またお気軽にお声がけいただければ幸いです!

※内容およびプロフィールは取材当時のものです