株式会社キントー

長期的な成長を実現するため ブランド哲学を人事制度に注入

中長期的にブランドを育む。その点は譲れなかった

ビジネス開発&グローバル推進 マネージャー

小出 慎平

タンブラーを筆頭に、生活を豊かにするプロダクトが支持を集める「KINTO」。 ブランドの理念を社内に根づかせるべく、新たな人事制度づくりに挑んだ。 アドバイザリーという形で伴走したコンサルタントとともに、その過程を振り返る。

ブランドの理念を従業員に根づかせる

FMHR 堀井 まず、御社のプロフィールについて改めて教えていただけますか。

小出 弊社は1972年に滋賀県彦根市で創業し、主にテーブルウェアを扱う問屋として全国に流通網を広げてきました。自社ブランド「KINTO」を立ち上げたのが約20年前。以来、タンブラーをはじめとするオリジナル商品の企画開発および販売へと舵を切って現在に至ります。

FMHR 堀井 今回、人事制度の構築に着手した背景は何だったのでしょう?

小出 KINTOが長期的に成長していくためには、ブランドのフィロソフィーが従業員みんなに根づいた状態をつくる必要があると考えました。そのうえで、フィロソフィーが落とし込まれた人事制度を構築すべきだろう、と。また、コロナもあって働き方のスタイルが自由になっていくなかで、労働時間ではなくパフォーマンスで評価される会社に転換していきたいとの思いもありました。

FMHR 野崎 フィロソフィーの浸透が起点になっているのはユニークですね。今回、私たちはアドバイザリーという形でご支援させていただきましたが、ブランドの世界観を、ロジックの塊である制度にどう組み込んでいくかという点が重要なポイントになりました。

FMHR 堀井 FMHRにご依頼いただけた理由についても教えていただけますか? 弊社HPにお問い合わせをいただいたのがきっかけでしたね。

小出 はい。人事分野に詳しい知人に相談し、紹介してもらいました。数社とお話しさせていただきましたが、制度のテンプレートを当てはめるような仕事の進め方をするコンサルが多い印象があり、KINTOらしい人事制度を新たにつくりたかった私たちには合わないのかなと感じました。FMHRさんとは最初にお会いしたときからフィーリングが合い、一緒に知恵を絞りながら制度をつくり上げていくことができると考えました。

FMHR 堀井 ありがとうございます。制度構築のプロセスは2段階あり、まず評価制度、そのあと報酬のあり方について固めていきました。最も苦労した点はどのあたりでしょうか。

「KINTO」らしさを評価。軸は全くブレなかった

小出 社員は大きく2つのグループに分けることができます。1つは、社の成長をリードしていく役割を担うグループ。もう1つは、物流や受発注など、メーカーとしての土台の部分を支えるグループです。評価や報酬の面において双方のバランスをどう取るべきなのか。その落としどころを探るのに苦心しました。

FMHR 野崎 わかりやすく言えば、企画系と管理部門。それぞれの業務の性質を踏まえた評価項目や等級定義をつくることにトライされていましたね。

小出 はい。ただ、単純に部署で分けるべきではない、とも考えていました。例えば物流業務。より効率化したり環境負荷を低くしたりする仕組みを考えだす人もいれば、日々のルーティンを確実にこなす役割の担い手もいる。どちらも大切な存在ですが、成長への寄与度を評価して「差」をつけなければならないという現実があり、悩ましかったですね。

FMHR 野崎 今回、小出さんを含めた経営層2人で制度構築に取り組んでおられましたが、両者の意見が多少食い違う場面もあったようですね。

小出 根っこの部分では同じ考え方を共有できていました。ただ、片方は東京オフィスにいて、もう片方は彦根本社にいる。普段見ている風景、対面している社員が違いますから、評価の度合いに関してはすり合わせが必要でした。でも、こうして人材や組織についてじっくりと話し合ったことで、お互いの認識を確認するきっかけにもなりましたね。

FMHR 野崎 よくありがちなのが、ハイパフォーマーは大事だけど、そうでない人も大事だから、両方しっかり評価しなければいけないというスタンスを取ってしまうケース。それだと、結局のところ総花的な制度になってしまう。今回は、KINTOらしい行動を取っている人を評価するという軸にブレがなかったからこそ、お2人の認識のズレも解消可能な範囲のものでしたし、全体の進行もスムーズでした。

FMHR 堀井 確かに、その評価軸に関しては本当に揺るぎなかったですよね。近年のトレンドとしては、定量的な目標を設定して評価する企業が多くなってきているなか、定性的な目標設定にすべきというスタンスを貫かれた。KINTOらしさを体現する行動とは何かを社員自らに考えさせ、それを実際に行った人を評価する。結果として、御社の特徴がはっきりと出た評価制度になりましたね。

小出 実をいえば、弊社はもともと定量目標を掲げてこなかった会社なんです。営業でさえノルマはありません。それは、定量的な目標を置いた瞬間から短期的な行動に走ってしまうと思うからです。私たちが望んでいるのは中長期的にKINTOというブランドを育んでいくことであり、そのための行動を促す人事制度にするという点は絶対に譲れませんでした。

FMHR 野崎 ここまで明確に覚悟を持って評価軸を断言できる経営者は多くないですよ。そうした姿勢はシンプルにかっこいいなと感じました。

FMHR 堀井 ただ、定量的な指標がないだけに、実際の評価は難しさを伴うものになりますね。

小出 その通りです。新しい制度に基づいた評価を運用していくここからが本番だと思っています。

制度は「武器」として活用。本質はコミュニケーション

FMHR 堀井 制度構築の取り組みを振り返って、私たちのアドバイザリーに対する率直な感想をお聞かせいただけますか。

小出 まず、最終的なアウトプットに関して大満足しています。どういう制度をつくりたいかという私たちの思いを大事にしていただきながら、節々のディスカッションを通して数々のヒントや考え方、フレームワークを示していただけた。打ち合わせを重ねるごとに一つ決まり、また一つ決まりと、まさにガイドしていただいた感覚があります。

FMHR 野崎 それを私たちとしても意識していました。クライアントサイドが思いを実現していく過程に合わせてさまざまなインプットを行うことで、抜け漏れがないか、確認を促していく。きっとKINTO様だけでも制度をつくることは可能だったと思いますが、より確かなものにしたり、自信を持って進めていただけるようなご支援ができたのかなと思います。

FMHR 堀井 人事制度の構築を終え、次の展開としてはどんなことを考えていますか?

小出 基礎的なことですが、制度を基盤として、それに沿ったコミュニケーションを積み重ねていくことが大事だと考えています。自分自身の行動や社員への声かけの一つひとつが、制度に込められたフィロソフィーと一致したものになっていれば、「やっぱりKINTOらしい制度になっているんだな」という社員の納得感が出てきて、定着していく。本来の目的である「フィロソフィーを伝えること」を推し進めていくうえで、この制度を武器として活用していきたいなと思います。あとは、欧米の子会社にも社員がおりますので、KINTOらしい人材がKINTOらしい仕事をするという状況を海外も含めてつくっていきたいですね。

FMHR 野崎 制度はあくまでツールであり、最後はコミュニケーションだというお話、私も同感です。制度をつくるだけで全ての課題が解決されるわけではありませんからね。私どももアドバイザリーという立場でありながら、KINTO様の姿勢に多くのことを学ばせていただきました。ありがとうございました!

*内容およびプロフィールは取材当時のものです