顧客の本業貢献に資する変革実践担当を選抜・育成
FMHR 和田
まずは、プロジェクトの概要と背景からご説明いただけますでしょうか。
米田
弊社は長らく、モノやサービスの提供、すなわちプロダクトアウトを中心とした電気通信事業をメインに成長してきました。
ただ、近い将来、市場の飽和が目に見えていたなかで、さらなる成長のためにはよりトータルなソリューションを提供する必要があるとの考えから、「顧客の本業に貢献する」という新たなビジョンが生まれました。
早期の事例創出を牽引する人材の育成が急務となり、“変革実践担当”の選抜と育成を行うことになったわけです。
FMHR さんには、彼らの成長支援にご協力いただきました。
FMHR 小林
変革実践担当の選抜はどのようにして行われたのでしょうか。
米田
基準は、業績・コンピテンシー・本人の意思という3軸です。
最も重視したのが本人の意思。過去に全員参加型の研修なども実施したことがありましたが、“やらされ感” を持った参加者の学習効果や実践意欲が低いという点には問題意識を持っていたんです。やるからにはムダな投資にはしたくありませんし、本人の手挙げを重視することにしました。
梅木
各候補者にこのプロジェクトへの参加意思を確認する際も、候補者の上長
への相談はあえて後にしましたね。
先に上長に伝えると、「受けてきなさい」「分かりました」という上意下達の意思決定になってしまう。
それを避けるためです。
FMHR 和田
プロジェクトでは、変革実践担当の方に私どもコンサルタントがワンオンワンで伴走する形態をとりました。こうしたコーチングやティーチングを交えた個別トレーニングの手法を選択されたのはどのような理由からだったのですか?
米田
それまでの経験から、実際の業務と人材育成との間に距離がある、結果として人材育成の優先度が下がってしまうという課題を認識していたからです。実務
における目標を設定し、それを達成するために育成を行う。そうした両者の紐づけが重要だと考え、コーチングという手法に行き着きました。
梅木
実を言えば、私はコーチングに対してかなり懐疑的でした。一対一で育てるなんてあまりに時間がかかるし、非効率だろうと。ですから、いわば最後の手段としてコーチングを選びました。まずは部長クラス15人ほどを対象としたトライアルから始めてみました。
FMHR 小林
結果はいかがでしたか?
梅木
弊社ではコーチングに対する理解度が高いとは言えず、「何を教えてくれる
んだい?」というスタンスで臨んでいる人もいましたね。「コーチングだけでは厳しいかな」というのが私の所感でした。
FMHR 小林
対象者の中にあるモチベーションや行動を“引き出す” のがコーチングの肝。
引き出しさえすれば前に進んでいける方なら問題ありませんが、それ以前に、前に進むためのスキルを教わることが必要な方もいる。対象者の資質に応じて、コーチングとティーチングをうまく組み合わせることが大切ですね。
梅木
トライアルには4社にご協力いただいたのですが、そのうち参加者からの評
価が一番高かったのがFMHRさんでした。それは小林さんが仰る通り、ティーチングを使い分けてくださっていたことが影響しているのだろうと思います。これからの変革実践担当の育成を考えた場合も、いくらハイパフォーマーを選抜しているとはいえ能力差は当然ありますし、コーチングだけで十分だとは思えなかった。やはり場面に応じてティーチングが必要になるだろうし、個々人に対して柔軟な姿勢で寄り添ってもらわないと必ずミスマッチが起こる。トライアルを経て、それらを持ち合わせているFMHR さんと組んでみようと決めました。
三者面談で目標を共有参加者の上長にも好影響が
FMHR 和田
プロジェクトは2018 年にスタートしましたが、実際にやってみてどのような感想をお持ちになりましたか。
米田
手挙げ式で本人の意思を尊重したものの、それでも1年目はドロップアウトす
る人、まだ“やらされ感” を抱きながら参加している人が少なからずいましたね。個別トレーニングの何たるかを理解していない人も多かったですし、そこは私どもの説明不足もあったかと思います。
FMHR 小林
確かに1年目は、まだ施策に対する適切なマインドセットがなされていない方が多く、私や和田もそういった方たちにどうフィードバックしていくべきかという点では頭を悩ませました。反発を招く恐れもあるなかで、言うべきことは可能な限りストレートにお伝えさせていただきました。
米田
2年目はその反省を生かし、事務局・FMHR さんと参加者との接点頻度を増やしたりと対処したことでかなり改善されました。参加者の中にはプレゼン資料
の作り方にまでFMHR さんからアドバイスをいただいた者もいて、それが受注につながったという話もありましたよ。
梅木
私は、参加者自身だけでなく、その上長に対しても好影響が及んでいたのを感じます。多くの上長から「すごくいい施策だ」という声をもらいました。
米田
確かに。「こんな施策は今までなかった。自分自身、変革実践担当の部下をどう育成すればいいかが分からず悩んでいた」「他のメンバーにも実施してほしい」と言ってくれた上長もいましたし、わざわざ電話をかけてきて感謝の気持ちを伝えてくれた人もいましたね。
梅木
弊社は1999 年ごろ、倒産の危機に直面したこともあり、会社として生き残っ
ていくために、固定電話やインターネット回線、スマホなど、数値目標の達成をひたすら追い求めてきたところがある。そういった営業で結果を残してきた人たちが現在は上司になっていて、マネジメントのスキルを十分に磨いてきたわけではない面があります。振り返ってみると、2年目のプロジェクトをスタートさせる時に上長も含めた三者面談の機会を設けたことが意義深かったなと思いますね。目標を設定し、それに向けてどのように成長を後押ししていくのかというプロセスに上長を巻き込むことができた。
FMHR 和田
確かに、三者面談で同じ視界を持てたのはよかったですね。上長は変革実践担当の目標を理解し、意識的に支援する。私どもは能力開発も含めて、目標達
成に必要なサポートをしていく。そういう役割分担がうまくできていました。
梅木
そうですね。FMHR さんに模範を示していただきながら「こうやって成長させていけばいいのか」という気づきを与えられたからこそ、多くの上長から感謝される施策になったのだと思います。
3年目に突入。残る課題は 3 参加者のさらなる意識改革
FMHR 和田
2020 年現在、プロジェクトは3年目に入りましたが、今後の課題についてもぜひお聞かせください。
米田
私としては、このプロジェクトの卒業生が本当に変革をリードする人材になれているのか、彼らが人材育成という文化を弊社内で醸成してくれているのかどうかという点は気になっています。
1年単位のプロジェクトが終わったあと、どんなフォローをしていくべきなのか、検討する余地があると感じています。
梅木
前年の参加者が次の年もプロジェクトの対象者に含まれるケースはよくあるのですが、「去年受けたから今年はもう受けなくていいですよね」という考え方の人がいるのは問題かな、と。彼らが「もう学びきった」「教えてもらったから終わりだ」と思っているとしたら、やっぱりまだまだこの施策の意義を十分に理解していないということになります。自分の生産性を上げるための行動促進をしていただけるわけで、「今年も受けられるなんてラッキーです」という言葉が出てきてほしい。そのあたりはFMHR さんにも今後、力を入れていただきたいと思っています。
FMHR 小林
そこはマインド面のアプローチですね。面談の際などに「なぜこの施策を行っ
ているのか」という話を織り交ぜていくことも含め、よりよい形を私どもも模索していきたいと思います。
梅木
学び続けることによって、社内だけでなく、広義の人材市場の中で価値ある人材になっていくんだという視座を持たせられればと願っています。
※内容およびプロフィールは取材当時のものです