株式会社かんぽ生命保険

採用戦略の再構築を伴走支援――経営と現場をつなぎ、“求める人物像”を明確化

自然体で話を引き出すインタビュースキルに大いに助けられました

執行役員 人事戦略部人材開発室長  人事部・人事戦略部担当補佐

川堀 充嗣

良い壁打ちができたからこそ「求める人物像」の方向性を見いだせました

人材開発室 採用・育成企画担当 課長

稲木 健人

日本郵政グループの一角を担い、総資産60兆円規模を誇る「かんぽ生命保険」。2007年の民営化からおよそ20年、全国に広がる組織力を背景に堅実な歩みを続けてきた一方で、近年は採用活動の面で課題を抱えていた。「我々が求めるべき人物像とはいかなるものなのか」――。その根本から採用戦略を見直すプロジェクトを、FMHRが伴走・支援。プロジェクトを推進した3人が集い、その軌跡と得られた変化を語り合った。

採用を“戦略的に再設計する”という視点

FMHR 堀井 まずは、御社の概要と、今回の取り組みの背景についてお聞かせいただけますか。

川堀 私どもかんぽ生命保険は、旧郵政省の簡易保険事業を母体として誕生した、100年以上の歴史を持つ生命保険会社です。2007年の民営化当初に比べると、近年はさまざまな環境の変化や組織の成熟などもあり、やや挑戦心と活力の低下が課題として意識されるようになってきました。最近では採用人数が思うように確保できない年もあり、「なぜ人が集まらないのか」「どうすれば主体的で活力のある人材を採れるのか」という課題意識が高まっていました。採用活動全体を見直し、高度化していく必要があると考えたのが出発点です。

FMHR 堀井 「採用業務の見直し」ということですが、どのような点がボトルネックになっていたのでしょうか。

川堀 どうしても目の前の採用業務を回すことが優先され、採用を“戦略的に再設計する”という視点が後回しになっていました。結果として、会社としての「求める人物像」が曖昧なまま採用が進むケースも多かったと思います。

FMHR 堀井 そのような中で、稲木さんが採用企画の担当に着任されたのですね。

稲木 はい。私は昨年(2024年)1月に着任しましたので、人事領域は初めての経験。チームも少人数で、知見も人手もない。自分たちだけでは限界があると感じ、外部の力を借りることを決めました。

FMHR 堀井 なるほど。内部だけで取り組むには、知見・リソースの両面で難しさがあったわけですね。

川堀 ええ。私たちとしても、採用を単なる人数確保の活動から脱却させ、会社の未来像と連動した戦略的なものに変えていきたいと考えていました。そのためには、外部の知見を借りながら、壁打ちしつつ方向性を定めていくことが不可欠だったんです。

FMHR 堀井 さまざまなコンサルティング会社がある中で、FMHRを選ばれた理由をお聞かせください。

川堀 一番の決め手はやはり、人事領域に特化している専門性の高さです。戦略系のコンサルだとスコープが広くなり過ぎて、現場の実務に落とし込むのが難しいことがあります。その点、FMHRは、採用課題の本質を捉えたうえで「求める人物像をどう定義するか」という私たちのテーマに的確に寄り添ってくれました。前職でご一緒した際の信頼もあり、「この会社なら任せられる」と確信を持てました。実際、小回りが利き、こちらの要望にスピーディーに対応してもらえたのはありがたかったです。

稲木 実務を担当する立場としては、柔軟な契約形態も大きな魅力でした。多くのコンサルは1人月単位でのアサインが前提ですが、FMHRはたとえば0.2人月といった小さな単位でも関わってくださる。必要なタイミングで必要な分だけお願いできるのは、とても現実的で助かりました。結果として、コストを抑えつつ高い専門性を得ることができたと思います。

FMHR 堀井 確かに、コンサル業界には“人をベタづけすること”に価値を感じている傾向があります。でも私たちは、短い工数でも御社が求めるアウトプットが出せれば、むしろその方が効果的な支援になると考えています。

トップダウンとボトムアップの両面から「求める人物像」を描出

FMHR 堀井 ここからは、実際の取り組み内容について伺いたいと思います。このプロジェクトでは、現場と経営の双方の視点をすり合わせることで「求める人物像」を明確化し、そのうえで採用戦略の基盤を整え、施策の優先順位づけやロードマップ策定にもつなげていきました。振り返ってみて、印象に残っていることはありますか。

川堀 最初にありがたかったのは、検討のフレームワークを明確に示していただいたことです。私たちはこれまで採用を「現場で回す」ことに追われがちでしたが、FMHRが整理してくれたおかげで、何をどの順番で考えるべきかがはっきりしました。これは今後の検討にも役立つ指針になりました。

FMHR 堀井 今回のプロジェクトの中で特に大きなテーマだったのが、「求める人物像」の策定でしたね。こちらについても振り返っていただけますか。

川堀 「求める人物像」を描くうえで、私たちは2つのアプローチを取りました。1つは、経営が掲げる方向性をもとに理想像を描く演繹的アプローチ。もう1つは、現場で成果を上げている優秀社員にインタビューし、彼らの行動特性から共通要素を抽出する帰納的アプローチです。FMHRの支援によってこの両輪を並行して進めることができ、現場のリアルと経営の理想が重なる部分を再認識できました。特に印象的だったのは、インタビューの場づくりですね。堀井さんが自然体で相手の話を引き出してくださり、社員の“本音”を言葉として整理できた。私たち内部の人間だけではどうしても固くなりがちな対話を、外部の立場から柔らかく導いてもらえたのは大きな助けでした。

FMHR 堀井 演繹と帰納、両方の視点がそろうと、現実と理想の接点が見えてきます。今回の取り組みはまさにその好例だったと思います。

川堀 社長へのインタビューも非常に印象的でした。堀井さんが柔らかい雰囲気をつくってくださったおかげで、最終的には自身の考えを熱く語っていました。横で聞いていても驚くほど率直で、本音の言葉が引き出されていたと思います。

「採用→育成」に軸ができ、会社全体が前向きな方向に

稲木 「求める人物像を定める」というのは、とても難しい作業です。なぜなら、それは経営として「会社をどの方向に導くのか」を決めることと同義だともいえるからです。社長にとっても勇気のいる決断だったはずですが、堀井さんとのインタビューを通じて生まれた言葉を、社長は今もさまざまな場面で使っているんですよね。たとえば内定式では、「歴史をつくる側の人間になってほしい」と語っていました。当時の対話が、社長にとっての良い“壁打ち”になり、経営としての言葉や考えを形にするきっかけになったのだと思います。

FMHR 堀井 社長としても、あの対話を通じて「こういう人材に来てほしい」という思いが固まっていったのかもしれません。決めることに不安はつきものですが、まず決めることで言葉が行動に変わる。その最初の一歩にご一緒できたのは、私にとっても貴重な経験でした。

稲木 決めることから逃げなかったからこそ、社内に方向性が共有され、採用も育成も自然とその軸に沿って動き始めました。今振り返ると、あのプロセスの重要性をしみじみと感じます。

FMHR 堀井 人物像を明確にしたあと、採用現場や社内の意識にどのような変化がありましたか。

川堀 一番大きな成果は、面接官同士の「目線合わせ」ができたことです。以前は「求める人物像」を共有していても、実際の面接の場ではあまり意識されていませんでした。それが今回の取り組みを経て、「かんぽ生命として求める人材とはこういう人だ」という共通認識が芽生え、採用活動全体に一貫性が生まれたと感じています。

稲木 「求める人物像」を定めたことは、採用だけでなく育成にもつながっています。入社後の育成方針を考えるうえで、どんな人をどう伸ばしたいのかという方向性がはっきりし、採用と育成の両輪がようやく同じゴールを見据えて動き出した感覚があります。現場の空気も変わってきています。地方の支店などを訪ねると、「最近の若手は前よりもずっと明るくなった」「積極的に意見を出すようになった」という声をよく耳にします。数字で測れるものではありませんが、“組織の活力”が戻ってきていると感じます。

川堀 やはり、社長が発信するメッセージの影響も大きいと思います。会社として“自分たちの存在意義をもう一度発信していこう”という流れが生まれました。以前よりも社長自らが学生や若手社員に語りかける場面が増え、会社全体が前向きな方向に動いています。

企業としての魅力と社会的価値を、「採用」目線で積極的に発信したい

FMHR 堀井 採用から育成、そして社会への発信へと、取り組みの範囲が広がっているのですね。今後についてもお聞かせください。

稲木 これからは新卒採用にとどまらず、経験者や専門職採用にも力を入れていきたいと考えています。職種やスキルに応じて採用の形を柔軟に設計し、多様な人材が自分らしく活躍できる会社にしていきたい。その一方で、採用は単なる入口ではなく、会社の姿勢を社会に伝える場でもあります。「私たちはこうありたい」というメッセージを積極的に外に発信していきたいと思っています。

川堀 今の学生や若手が企業に求めているのは、「自己成長」と「社会への貢献」です。これは、かんぽ生命が本来持つ公共性や社会的使命と非常に相性が良い。だからこそ、私たち自身も“安定を守る会社”としてではなく、“社会に価値を生み出す会社”として成長していく必要があります。そのために、マネジメント層を中心に“育成”のあり方を見直しています。キーワードは「リミッターを外す」。法の制約や前例主義の中で思考が止まりがちですが、挑戦の芽を摘まず、背中を押すマネジメントに変えていきたい。そうした姿勢が、結果的に社内の活力を高め、外に向けた発信力にもつながると感じています。

稲木 私たちの会社には、社会に貢献するDNAがあります。かつて簡易生命保険の資金で建てられた公民館や児童館のプレートには、今も「簡易生命保険で建てられました」と刻まれています。その精神を現代的に再解釈し、「社会に新しい価値を生み出す会社」として発信していきたい。採用から育成までをつなげる循環を、これからも強化していきたいと思います。

FMHR 堀井 挑戦を促し、その挑戦を社会に伝えていく――その循環が、これからのかんぽ生命を動かす原動力になりそうですね。私たちとしても、御社のように“採用を起点に変わり続ける組織”の進化をこれからも支えていきたいと思います。本日はありがとうございました。

※内容およびプロフィールは取材当時のものです