株式会社インテージ
個人の成長意欲を駆り立てる!“スキルマップ”を新たに構築
スキルを網羅的に抑えたことで社に〝共通言語〟ができた
経営推進本部 人事部 部長
堀 達志
スキルの可視化で、個人が成長実感を得られるように
経営推進本部 人事部
片岡 紫織
変容しつつある事業環境に対応するためには、社員個人の成長を促す人事制度が必要――。その一環として、マーケティングリサーチ業界のトップランナー、インテージが着手したのがスキルマップの構築だ。FMHRが支援したプロジェクトの足跡と意味を、当事者4人が語る。
業界に訪れた変化の波 制度改定で個の成長を後押し
FMHR 金子 今回のプロジェクトでは、スキルマップ構築のご支援をさせていただきました。まず、そこに至るまでの御社の背景を教えてくださいますか。
堀 この20数年ほどマーケティングリサーチ業界が伸びるに伴い、弊社も増収を続けてきましたが、ビッグデータの登場で事業環境が変わりつつあります。また世の中全体も先を見通しにくい状況となっているなかで、従来のマーケティングリサーチだけでなく、データ分析に基づいたご提案に踏み込むなど事業領域の拡張を図る必要性が感じられるようになってきました。そうした状況に対応していくためには、個々人が成長し、それぞれに意思を持って動くことが強みになる。人事分野ではしばしば「Will・Can・Must」というフレームワークが用いられますが、弊社としては「Will・Can・Should」がふさわしいあり方だと考えています。そうした観点から人材の成長を後押しできるような制度をあらためて整備したいと思ったんです。
FMHR 山田 人事評価制度の改定は御社独自で行いつつ、スキルマップ構築については外部に依頼するという形を採られましたね。そのあたりはどういったご判断だったのでしょうか。
片岡 人事制度改定に関しては社内である程度の方向性がすでに定まっていました。一方、スキルマップ構築はまったくの未経験。それに、項目化するスキルを“インテージよがり”のものにしたくないとの思いもありました。他の業界、一般的な企業ではどうされているのかということも参考にしたかった。FMHRさんには知見や実績があり、また研修で以前からお付き合いがあったこともあり、ご協力をお願いすることにしました。
FMHR 金子 プロジェクト期間は4カ月間ほどでしたが、実際に取り組まれてみていかがでしたか?
片岡 新たな人事制度と連動させたいと思っていましたので、そこを並行しながら進めていくのが難しかったですね。役割等級制度にするかどうか、スキルをどう洗い出していくかなど、取っ掛かりの議論をよくさせていただきました。社内では堂々巡りの議論になってしまうところもありましたが、FMHRさんから「そういうふうにするとこんなメリット、デメリットがある」とアドバイスをいただいてスムーズに進めることができました。
堀 職業柄なのかもしれませんが、社には細かい人間が多くて(笑)。必要以上にきっちりやろうとしてしまいがち。そこをバッサリと切っていただけた。
FMHR 山田 パーフェクトなものをつくろうと網羅性を意識するあまり、袋小路に入って、哲学的な世界にまで入り込んでしまうことがよくあるんです。「ところで知識ってスキルなのかな?」と考え始めたり。それを削いでいくのも我々の役目の一つかなと思います。
社内アンケートをもとに 必要なスキルを言語化
FMHR 山田 人事制度改定の一環でコンピテンシーも見直されていましたね。そのコンピテンシーとスキルのすみ分けをきちんとしておくことが第一ボタンとしては大切だと私は思っていました。コンピテンシーはスキルを含んでいるとも言えるので、両者を粒度で切り分けしておかないと、同じことを2回も見ているような状況になってしまいますから。
FMHR 金子 人事制度の改定を主導されているご担当者にミーティングに加わっていただいたこともありました。インテージ様として、どういうコンピテンシーを設定しようとされているのか、どういう考えをもって制度改定に臨まれているのかを理解する、いい機会になりました。ただスキルマップをつくるという狭い視野にとどまらず、全体最適の観点から取り組むことができたと思います。
堀 スキルを洗い出す際、スタンス(姿勢)やナレッジ(知識)という観点があるというご指摘をいただけたのは大きかったですね。社内ではなかなか整理しきれていない部分でしたので。
FMHR 金子 その「スタンス」「ナレッジ」「スキル」の3項目で、社内アンケートをとらせていただきました。職種を5つに分け、それぞれの業務フローに対して「どんな知識が必要か」「どんな姿勢で臨むべきだと思うか」といった問いにご回答いただいたうえで、得られた情報を整理していく。
FMHR 山田 たとえば営業の方は「懐に入り込むことが大事だ」とよく言いますよね。では、それをスキルとして落とし込むとどうなるんだろう、と。
FMHR 金子 専門性の高い領域などに関しては、お二人に教えていただきながら理解を深めることができました。また、抽出したスキルについてもディスカッションを重ねながら統合や分割をしたり、適切な名称を考えたり。私としては「一緒につくらせていただいた」という感じが強くします。
FMHR 山田 アンケートからスキルを抽出する作業をしていたとき、実は一番悩ましかったのがワーディングでした。名前を聞いただけですぐに連想できるようなスキル名称を当てはめることは大事ですし、御社もすごくこだわられていました。
片岡 誰にでも通用する言葉で書き起こして議論のベースをつくっていただいたことは本当にありがたかったです。コロナの影響が出始めて弊社としても大変な時期でしたが、私たちに代わって手を動かしてくださり、すごく助かりました。
スキルマップは「共通言語」 様々な施策との連携を模索
FMHR 金子 スキルマップの本格運用はこれからだと伺っていますが、どのような効果を期待していらっしゃいますか?
片岡 各スキルに対して5段階で評価する設計になっています。どのスキルがどの程度できるのか、それを可視化することで個人の成長が見え、成長実感を得られるようになるということをまずは期待しています。また、スキルマップを人材の配置や研修などに結びつけるといった形で効率的に運用していきたいですね。
堀 スキルを網羅的に抑えたことで社内の共通言語ができた点が大きいなと感じています。各社員と上司の対話もスムーズになるでしょうし、個人として目指すべき理想像を描きながら「自分はこのスキルをもっと身につけなくてはいけないんだ」という自発的な思いの芽生えを加速させるものになるのではないかと期待しています。
FMHR 山田 スキルマップを処遇と関連づけるやり方もありますが、その場合、スキル評価に手心が加わってしまう可能性がある。そこで今回のプロジェクトでは、処遇とは切り離して、純粋にスキルの評価と可視化に徹することにしました。ただ一方で、処遇に直接的に紐づかないスキルマップは形骸化してしまうリスクもあるんです。スキルマップを運用していくうえで、それを実際の人事の取り組みにどうつなげていくかが大切ですね。
片岡 今回つくったスキルマップは社内のシステムに実装したのですが、そこでは入力されたスキル評価に対応して、おすすめの書籍や研修などを自動的に表示できる仕組みもありますので、上手に活用できるといいなと思っています。
堀 今後、社員に何らかの役割を任せるときに、コンピテンシーに加えてスキルやナレッジ、スタンスが判断材料に入ってくるでしょうし、そういう意味では間接的に処遇にもつながってくるのだろうと思います。スキルマップは、社員がより生き生きと活躍できる人事制度の中の重要なパーツの一つ。他の施策と連携させながら効果を最大限に引き出していきたいですね。研修についても、階層で一律に対象者を決めるのではなく、スキルやスタンスなどで受講すべき人を絞り込むこともできる。それによって研修効果も高まるのではないかと思います。
FMHR 山田 ご指摘のとおり「パーソナライズ化」はこれからの重要なトレンド。教育だけでなく、処遇や働き方などもそうです。個人のスキルや事情に応じた施策を講じていくうえでも、スキルマップはベースとして活用できる。様々な場面でお役立ていただけたら我々としてもうれしい限りです。
※内容およびプロフィールは取材当時のものです