ダイドードリンコ株式会社
“要”の部署の課題に切り込む!マーケティング部の人材要件と教育施策を再整備
コンサルという立場だからこそ厳しいことも言ってもらえた
人事総務部 人財開発グループ シニアマネージャー
石原 健一朗
缶コーヒーのパイオニアであり、現在は自販機ビジネスと「ファブレス経営」による効率的な事業運営を強みとするダイドードリンコ。同社の“要”ともいえるのがマーケティング部だが、教育体系の整備は長らく進んでいなかった。この課題解決に挑んだ人事のキーマンとコンサルタントが、プロジェクトの意義を振り返った。
マーケティング部の教育体系づくりに切り込んだ“狙い”
FMHR 土橋 今回の記事では、ダイドードリンコ様のマーケティング部における人材要件の整理、さらにそれを実現するための教育施策の方針立案をテーマとしたプロジェクトについて振り返りたいと思います。まずは、こうしたプロジェクトの実施にいたった背景から教えていただけますか?
石原 当社は2010年、機能別に分社化する構造改革を実施しました。これを機にキャリア採用を行うようになったのですが、その際、先頭を切ってキャリア採用をスタートさせたのがマーケティング部でした。部門長を筆頭に、社外でさまざまな知見を得てきた人材が活躍していますし、マーケティング部は当社の中でも先進的な部署という位置づけにあるといえます。 教育施策に関しても、他部署と比較すると体系的に整備されているものと考えていましたが、私が2015年に入社して以来、人事の立場でマーケティング部のメンバーと対話を重ねる中で、「実はマーケティング部でも教育施策が十分に整っていないのではないか」と感じるようになったんです。近年は再び新卒採用が増えてきていることもありますし、デジタルマーケティングなど新たな知識のインプットも必要になってきたことから、マーケティング部の人材要件や教育施策を整理したいと考えるようになりました。
FMHR 土橋 人材要件についても、きちんと整理されていなかったのですか?
石原 新卒採用という文脈においては言語化されていましたが、入社後の姿をカバーするようなもの、将来の会社における当部門において必要となる人材要件という意味ではしっかりと整理されていないような状況でした。
FMHR 土橋 最も進んでいると思われていたマーケティング部でさえ、実はそういう状態だったと……。
石原 マーケティング部だけではなく、将来における部門に必要となる人材要件の整理は全部門に共通の課題です。ただ、人材要件の定義や教育施策の立案をいきなり全社的に進めていこうと思っても、過去に同じような取り組みをした経験があるのは社内に私くらいしかいないというのが実情でした。ですから、今回のプロジェクトを通して、今後一緒に取り組んでいける仲間となるような人材を育成することも大事だと考えていました。そこでタッグを組むことにしたのが、人事部とつながりの深い経営戦略部。両部署は普段から人的資本経営という文脈でいろいろと協力し合っていますし、経営戦略部の現在の部門長と管理職がマーケティング部の出身だということも背中を押しました。その2人を巻き込んで、彼らにとっては古巣であるマーケティング部の課題解決に乗り出してもらうことにしました。
FMHR 土橋 経営戦略部のお二方が今回のプロジェクトで経験を積めば、他部門への展開もしやすくなる。そういう“裏ゴール”があったんですね。
石原 ええ。むしろ、その“裏ゴール”を達成の方が組織開発の観点では重要になります。マーケティング部へのてこ入れは、この裏ゴール達成の手段としても重要な取り組みだったと言えます。
FMHR 土橋 そのゴールは達成できましたか?
石原 期待値に対して120%の達成度ですね。今回のプロジェクトに力を貸してくれた2人は、マーケティング部から経営戦略部に移ったことで、教育体系づくりに関して「なんとかしなきゃいけない」と考える立場になったわけですが、具体的にどう進めればいいのかが分からないという状況でした。今回は実際のプロジェクトに主要メンバーとして関わってもらいましたので、とても大きな経験の上積みになったと思います。私としても、経営戦略部やマーケティング部のメンバーとの関係性がより深まり、いろんな相談ごとができるような関係構築につながりました。そこは人事として、すごく大きな成果の一つだと感じています。
FMHR 足立 話が少し遡りますが、今回の案件をFMHRに依頼しようと思われたのは、どのような理由があったのでしょうか。
石原 きっかけは、御社のセミナーに参加させていただいたことですね。「スキルマップのつくり方」をテーマにしたセミナーだったかと思いますが、その内容がすごく整理されていて分かりやすかった。それで御社に興味が湧いて少し調べてみたら、『戦略的人事制度のつくりかた』という書籍も出されていると知って……。偶然にも、私はその本をすでに持っていたんですよ。分かりやすくて良い本だな、と思って読んでいたところでした。これで点と点がつながって線になったというか、「これは何かの縁だ」と。教育体系の整理に乗り出したいと考えていた時期でもありましたし、御社のお力をお借りできればと思って相談させていただきました。
FMHR 足立 弊社が出した書籍までお読みいただいていたんですね!
石原 セミナーや書籍で一番に感じたのは、一つひとつの説明が分かりやすいということ。今回のプロジェクトでも御社による情報整理の分かりやすさというものを随所に感じました。言語化の能力はもちろん、ビジュアルの使い方も含めて見せ方がうまいですよね。
FMHR 土橋 ありがとうございます。私どもとしては、資料をつくって終わりではなく、整理した情報が活用されてこそ意味があると考えています。そういったところには意識して取り組んでいるつもりなので、そう言ってもらえて非常に嬉しいです。
石原 コンサルティングファームとのお付き合いの中では、情報はしっかりと整理されているけど、企業側にそれを読み解く力や時間が足りないということが起こりがちですよね。その結果、理解が不十分なまま、なんとなく進んでいってしまう。情報を整理し、導き出された結果に対して、どのように読み取るべきなのかも含めて分かりやすく伝えることは、コンサル側の姿勢としてすごく大事な部分だと思います。
綿密な“作戦会議”で活発な議論を誘発
FMHR 土橋 このプロジェクトは、大まかな流れでいうと、現状把握、組織別の人材要件の言語化、現状の教育コンテンツの洗い出し、そして今後に向けた最適な教育施策の立案という形で進められました。各プロセスごとにワークショップを開き、事務局側とマーケティング部のメンバーとの間で積極的な意見交換が行われました。全体を振り返って、どのような感想をお持ちでしょうか。
石原 マーケティング部の教育体系の現状、また、将来はどうあるべきなのかという方向性について目線合わせができたことがまずは良かったと感じています。特に、現状認識の部分ですよね。「きちんと整理された教育体系はやはり必要だな」「現状のままではまずいよな」とあらためて気づけたことが大きいかなと思います。それを共有できてさえいれば、おのずと、どうしていけばよいかをみんなで考えていくことになりますので。
FMHR 土橋 現場を巻き込んでいく必要もあったかと思いますが、そのあたりについては何か工夫をされたのでしょうか。
石原 プロジェクトを開始するにあたって、「こういうことをやりますよ」と全体に対していきなり投げかけるのではなく、一人ひとりに説明するようにしましたね。なぜこのようなプロジェクトが必要なのかを伝えつつ、それに対する各メンバーの思いを聞き出し、彼らとしてはどうしたいのかを引き出していく。すると、こちらから協力をお願いするというより、彼らから「こんなふうにしてほしい」とお願いしてもらうような形に話を持っていけるんです。
FMHR 足立 なるほど! でも、実際にそれをするのはなかなか難しそうです。
石原 確かに簡単ではありません。でも、私はそういうのが得意なほうなので(笑)。
FMHR 足立 定例会やワークショップの前によく“作戦会議”を開いたのが印象に残っていますが、それも石原さんの意図通りに手順を進めていく狙いがあったんですね。
石原 やはり、人事の仕事を進めていくうえで「根回し」は非常に大事だと考えています。ただ、そういう根回しのようなことをするときに、人事という立場にある私だけではなかなか難しいことがあります。社内の人間としては直接言いにくいことが、どうしても出てきますから。社外のコンサルという立場だからこそ厳しいことも言ってもらえたので、そこは非常に助かりました。すごく良い形で連携が取れていたと思います。
FMHR 足立 ワークショップなどで、事前の“作戦会議”で想定した通りに話が進んでいくのはとても興味深かったです。それと同時に、議論がはかどったのは、参加者の皆さまが真摯に向き合ってくださったおかげでもあるのかなと思います。
最適な手法を模索しつつ他部門への拡充を図る
FMHR 土橋 今回のプロジェクトの主題は人材要件の定義や教育施策の立案だったわけですが、この取り組みを通して、組織面の課題として新たに見えてきたものなどはありましたか?
石原 そうですね。組織というものは人と人とのつながりであって、目に見えない要素が多くあるかと思いますが、今回のプロジェクトでそれが浮き彫りになってきたところがありました。発言するとき、誰かにちょっと気を遣っている様子があったり、険しい顔で話を聞いていたり、それぞれの参加者の間の力関係や空気感みたいなものを伺い知ることができました。当社のキーマンも参加していましたし、人事として、そういう人間模様を見られたのは非常に大きな収穫でした。
FMHR 土橋 あらためて定義した人材要件に沿って、今後どのような方法で教育に取り組んでいくのがよいか、その方針を策定するところが本案件の着地点となりました。その先については、どのような展望を描いていらっしゃいますか。
石原 まず現状の課題としては、当社の状況に合った教育・育成のツールを選定することですね。それが決まったら、先ほども申し上げた通り、マーケティング部以外にも取り組みを広げていきたいと考えています。ただ、その進め方として、マーケティング部でやったのと同じ手順である必要はないのかもしれません。マーケティング部との関連でいうと、営業部門との連携が非常に大事なのですが、そこはツールベースでスタートさせるのも一つの手だと思っています。要するに、マーケティング部で導入する育成ツールを営業部にも入れる。そうすることでマーケティング部と営業部門が共通言語で話せるようになると、よりスムーズかつポジティブな形で教育施策の拡充を実現できるのではないかと思うんです。マーケティング部で先行して取り組んできた内容に対する効果検証もしっかりと行ったうえで、他部門に波及させていくつもりです。
FMHR 土橋・足立 また何かお困りのことがあれば、ご相談いただければ嬉しいです。石原さん、お忙しいなかご協力ありがとうございました!
※内容およびプロフィールは取材当時のものです