大同生命保険株式会社
「これからの管理職」を育成するコーチングプロジェクト――人間味で課題を引き出し、フレームワークの活用で実践を促す

フレームワークの活用で、管理職育成の取り組みに再現性が生まれました
人財開発部長
吉井 健一

教科書的な研修では感じられない“リアル”がありました
人財開発部 人財企画課長
山本 徹

あくまで「現場での実践」を重視する姿勢がとても印象的でした
人財開発部 人財企画課 係長
井藤 奈津子
中小企業への支援に注力する大同生命保険は、社会や事業環境の変化を踏まえ「これからの管理職」に求める要件を明確化。それらの要件を備え、かつ実践できる管理職を育成するプロジェクトへ踏み出した。そこで活用したアプローチは「コーチング」。まずはパイロットプロジェクトとして30名の管理職を選抜し、FMHRのコンサルタントがコーチを務める形でコーチングに取り組んだ。直面した難しさや、フレームワークを活用した意図、本格運用に向けての手応えなど、本プロジェクトに関わったキーパーソンたちが語り合った。
苦労の末に導き出した、これからの管理職に求める「4つの要件」
FMHR 武藤 まずは御社の概要をあらためて教えていただけますか。
吉井 当社は大阪の豪商「加島屋」を源流とする生命保険の会社で、創業から120年以上の歴史があります。1970年代以降、中小企業の経営者を守る法人保険市場に注力する方針に舵を切り、中小企業市場におけるトップランナーとしての地位を築いてきました。現在は「想う心とつながる力で 中小企業とともに 未来を創る」というミッションを掲げ、生命保険に加え、生命保険以外の分野も含めて中小企業の事業継続や成長・発展を支援するサービスを広く展開しています。
FMHR 武藤 そうした流れの中で、「これからの管理職」を育成するプロジェクトに取り組もうと思われたのは、どうしてでしょうか。
吉井 新たな事業やサービスを生み出していくイノベーションが必要となったときに、多様性と自律性を備えた人財が活躍するような世界観を創出することが大事だと考えました。そういった人財がやりがいをもって働けるようにするには、彼らの多様性や自律性を受け入れる組織や上司の存在がないと、心理的な安全性を担保できません。私たちが目指す世界観をつくっていくうえでは、まず管理職から意識を変える必要があるという考えのもと、管理職の育成プロジェクトに取り組むことになったんです。
FMHR 山田 FMHRが参画する前の時点で、御社が「これからの管理職」に求める要素として4つのワード「リードする」「任せて育てる」「先を見る」「一人ひとりに向き合う」をすでに規定されていましたね。その経緯を教えていただけますか。
山本 これまで当社において、管理職としてのあるべき人財像のようなものはきちんと言語化されていなかったのが実情で、まずはそこを明確にする必要があると考えました。一部のメンバーだけで「こうあるべきだ」と決めるのではなく、全役員と、選抜した管理職に対するインタビュー、さらに全職員を対象としたアンケートも実施し、エッセンスを抽出していきました。不可欠なプロセスだったと思いますが、なかなか大変でもありましたね。
吉井 30年ほどの歴史をひもといてみる、という試みもしました。あらためて俯瞰してみると、商品はもちろん、人事制度、システム環境、勤務時間などなど、ひと昔前と比べて業務環境が激変していることを痛感しました。その中で、今の管理職はかなり大変な立場だということも見えてきました。仕事自体が高度化してきていますし、部下との接し方にも細かな配慮が求められる。そうしたものをすべて踏まえたうえで、これからの管理職に求められる要素として4つの言葉に収斂していきました。
FMHR 山田 私たちもそういうプロジェクトに関わることが多いので、これは相当なご苦労がおありだったんだろうなと……。
井藤 ワーディングのところはかなり大変でした。皆さんが誤りなく受け入れられる平易な言葉にすることを意識したのですが、全員が腑に落ちる表現になかなかたどり着けなくて。例えば「任せて育てる」は最初「任せる」でしたが、それでは丸投げしている感じが出てしまうという意見をいただき、「任せて育てる」という表現に変えたり。議論を延々と繰り返しましたね。
管理職育成に「コーチング」アプローチを採用した理由
FMHR 山田 それだけのご苦労があった末に、4つの言葉が紡ぎ出されたんですね。それらを備えた管理職を育成するフェーズに入るところから、私どもはご支援させていただくことになりました。なぜFMHRにご依頼いただけたのでしょうか。
吉井 人財開発部ができて3年目になるのですが、1年目に取り組んでいたのがスキルマップの構築でした。当時参加したFMHRさんのウェビナーがすごく分かりやすくて、それをきっかけに御社のことを知るようになりました。なかなかお仕事でご一緒する機会はなかったのですが、今回のプロジェクトで初めてお願いすることにしました。決め手の一つは、「提案して終わり」のコンサルティングではなく、最後まで伴走支援してくださる姿勢を心強く感じたこと。今回は特に、現場に落とし込むことが重要なポイントでしたので、FMHRさんならそこに大きな役割を果たしてくださるだろうという期待感がありました。
山本 私の印象では、FMHRさんは臨床医。研究室にこもって理論をこねくり回すのではなく、あくまで現場に落とし込む。そういう実践のところに強みがおありなんじゃないかな、と感じていました。今回のプロジェクトのパートナーには最適だったと感じています。
FMHR 山田 ありがとうございます。育成の手法としては、コーチングでいこうということになりましたが、その背景についてもお話しいただけますか。
山本 育成や教育となると、ともすれば押しつけになりがちですよね。こちらが与えたハウツー通りにやってもらって、事務局側が気持ちよくなるだけで終わってしまったり。そういう課題意識があって、自律性を引き出すコーチングが良いのではないかと考えました。
吉井 人財開発部としては、研修だけに時間を取られるわけにはいかない。その一方で、全員に同じことを教え込む紋切り型の研修にするのもどうなのかなと思っていました。一人ひとり課題が違いますし、本人のウィルも大事にしなければいけない。そうした背景があって取り組み始めたコーチングで、フレームワークを活用するというご提案をいただけたことはすごく大きかったですよね。研修が終わってからも継続できるものですし、再現性のある取り組みになったと思います。

実用性の高いフレームワークを活用し、地に足のついた対話を促進
FMHR 山田 実を言うと、このプロジェクトでのコーチングはかなり難易度が高いものだと感じていました。まず、今回はパイロットとしての実施で、本格運用のフェーズにつなげるためにも失敗はできないぞというプレッシャーがありました。さらに百戦錬磨のマネージャー陣と対峙することになるうえ、御社として「こういう管理職を育てたい」というある種のゴールのようなものも設定されていた。通常のコーチングであれば、的確に問いを立てることができさえすれば順調に進んでいくだろうという予測が立ちますが、その点、今回は“変数”が多くて予測が難しかったんです。特に懸念していたのは、言葉の応酬、いわば“空中戦”が始まってしまい収拾がつかなくなることでした。そうなると、なかなか地に足のついた対話ができなくなってしまいます。それを突破するためのアイディアの一つとしてフレームワークを活用するというご提案をさせていただきました。
FMHR 武藤 今回のプロジェクトならではの特性があるという話は、準備段階でも、また実際にコーチングが始まってからも、私どもの間ではよく出ていましたね。私は山田からの指示を受けて、今回のプロジェクトで活用できそうなフレームワークを準備する役目を務めさせていただきました。実際の現場でちゃんと使えるもの、コーチングが終了したあとも使い続けてもらえるものという視点を大事にしたつもりでしたが、山田からはたくさん赤ペンを入れられまして(笑)。当初案として20以上あったものが、最終的には13に絞り込まれました。そういったプロセスは私にとっては大きな学びになりました。
山本 フリーハンドでやるということになればさらに難度は上がっていたと思うので、フレームワークがあって本当に良かったと思いますよ。ご準備は大変だったかもしれませんが(笑)。
FMHR 武藤 お気遣いありがとうございます。コーチングの進捗状況をモニタリングさせていただきましたが、私どもが想定していた以上に、一つひとつのフレームワークに対してしっかりと取り組まれていた方が多くいらっしゃって、皆さんとても誠実だなという印象を受けました。
山本 当社の特徴なのかもしれませんね。フレームワークのようなものを提示されると、それに対して非常にまじめに取り組む人が多い。でも、だからこそ、あまりフレームワーク推しのプロジェクトにはしたくないなという思いも、実は持っていました。コーチングを受けた人たちが、そちらばかり向いてしまう恐れがありましたので。でもその点、FMHRさんのバランスの取り方がすごくうまかった。勧めつつも、押しつけ過ぎないというか。
井藤 実は私も、実際に始まるまでは半信半疑のところがありました。フレームワークって研修のときだけしか使えないんじゃないかな、本当に意味があるのかなって。でも、これは必要だったなと、やってみて思いました。どういうふうに使えばいいかという現場への落とし込みのところまで分かりやすく説明されていましたし、私もこれから管理職を目指していく立場として学んでいこうと思いました。
人と人の真剣勝負だからこそ、本音でぶつかることが必要な局面も
FMHR 山田 思い返すと、特にコーチングの初回、2回目くらいまではかなりの緊張感がありましたね。
山本 「フレームワークで現場の課題が解決するなら苦労しないよ」という感じの反応を示す人もいないわけではなかった。でも、それこそがリアルだと思いましたし、回を重ねていくごとに共通認識が醸成されていく、嚙めば嚙むほど美味しくなる感じを実感できました。きれいごとを並べているだけの研修にはなっていないな、という手応えがありました。
FMHR 山田 プロジェクトでは私を含め3名がコーチ役を務めさせていただいたのですが、ほかのコーチが担当した回で難しい局面があったという話は耳に入っていました。一口にマネージャーと言ってもレイヤーはさまざまでしたし、そもそもの課題設定の部分でかなり時間がかかっているケースもあった。ウィルを大切にしたいけど、ウィル任せだけではにっちもさっちもいかないというせめぎ合いはありましたね。
吉井 そのあたりには、どうやって立ち向かっていかれたんですか?
FMHR 山田 コーチ役を務めたメンバーには、「もし迷ったら、あなた自身が思うことを言ってもらって構わないよ」という話をしました。「今回の企画のコンセプトに沿うと、どう答えるのが正解なんだろう?」といちいち考えていられないというのが現実ですから。コーチングの時間は人と人の真剣勝負の時間でもありますし、本音でぶつかりながら相手の思いを引き出していったほうがうまくいくこともあると思ったんです。
山本 すごく難しいコーチングをお願いしていたんだ、というのは後になって気づいたところもありました。でもその中で、押し引きのバランスをうまく取っていただいて、さすがだなと感じましたね。
今後は本格運用のフェーズへ。管理職育成を起点に組織全体の風土変革を目指す
FMHR 武藤 あらためてプロジェクト全体を振り返ってのご感想を伺えればと思います。
山本 どうなるか分からない不安があった中でも、潮目が変わったなと感じた瞬間が2回ありました。1回目は、受講者向けの説明会を開いたとき。山田さんの話にみんなが引き込まれていましたよね。あのときに、育成に不可欠な“学んでみたいという種”が各受講者の中に生まれた感覚がありました。もう1つは、中間で行った意見交換会のときですね。受講者が全員集まり、それぞれの悩みを語り合うことで一体感が生まれたように感じました。
吉井 事後に取ったアンケートでも、意見交換会で課題や実践していることの共有ができたのがよかったという声は多かったですね。あのときも山田さんが印象的なお話をされていました。「管理職は、自分がうまくやることよりも、うまくやれるように頑張る姿を見せることが大事なんだ」と。それを聞いた受講者たちは気が楽になると同時に、背中を見せなきゃいけないんだという気持ちにもなったはずです。受講者には事前・事後で自己評価をしてもらいましたが、4つの要素に対する理解度や実践度はしっかりと上がっています。人・組織づくりという観点で大事なのは周囲への波及効果ですが、まずは起点となる管理職の意識や行動が変わり始めていることに好感触を得ています。
FMHR 山田 私の話が少しでもお役に立ったのなら、本当にうれしいです。マネージャー研修のときはいつも、講師側=「できている人」、研修を受ける側=「できていない人」という関係性にならないようにしようと心がけています。私自身も悩むことは多いんですと講師側が正直に打ち明けつつ、互いに悩みをぶつけ合いながら解決策を探っていく。そういうふうにしないと、マネージャーの皆さんの心にも刺さらないだろうなと思うんです。今回はそれが良い方向に作用したのかもしれません。
FMHR 武藤 パイロットが終わり、次は本格運用のフェーズに移行します。今後の展望や意気込みなど、最後にお話しいただけますでしょうか。
吉井 今回のパイロットでは、うまくいったが部分が「8」、課題が「2」残っているという形になると理想的だなと思っていたのですが、まさにその通りの着地になりました。これから3年間かけて全員の管理職に広げていきますので、課題だったところは改善しつつ、あらためて気を引き締め直して取り組んでいかなければと思っています。「また受けたい」と手を挙げる人が出てきたときに対応できるような仕組みも用意しておきたいですね。それと同時に、部下の側のリーダーシップ、あるいはフォロワーシップについてもしっかり明文化していきたい思いがあります。
山本 ただ管理職向けの研修というだけでなく、そこを起点にして会社全体の風土や雰囲気を変えていくことがこの取り組みの本質。管理職がマネジメントを進化させていきながら、会社全体に良い影響を与えるようなものに発展させていきたいと考えています。
井藤 私も、管理職だけが頑張っていればいいという雰囲気を醸成させないことが大事なのかなと思います。管理職の取り組みを会社全体に知ってもらう。知れば、そういう管理職を支えようという気持ちも芽生えてくるはず。プロジェクト自体を着実に前進させつつ、社全体の雰囲気づくりにも意識を向けていくことが今後は必要なのだと思います。
FMHR 武藤 大同生命の皆さま、ご協力ありがとうございました。本格運用のフェーズでも引き続きよろしくお願いいたします。
※内容およびプロフィールは取材当時のものです
