荒井商事株式会社

制度構築の“その後”の壁をどう乗り越えるか ――組織の「自走」を目指す、人事常駐(PMO)支援プロジェクト

アドバイスにとどまらず、実務に踏み込んで一緒に動いてくれる心強い存在です

管理本部 人事部長

藤原 正英

常駐支援という形で、現場のリアルな空気感を共有しながら伴走してもらえます

人事部 人材開発課 マネージャー

増井 繭子

中古車両・機械オークションと食品流通を二本柱に事業を展開する荒井商事。同社はFMHRとともに「役割等級」を軸とした新たな人事制度を構築した。しかし新制度の稼働後、いざ評価サイクルが迫る中で、運用の詳細設計や現場調整を担う実務の「手」が不足する壁に直面する。そこで同社は、制度を定着させるべく「人事常駐(PMO)支援」の導入を決断。属人化の解消から現場との対話、自走に向けたノウハウ伝承まで、制度設計の“その後”に待ち受ける運用のリアルと現在地を、人事担当者とFMHRコンサルタントが語り合った。

新制度の運用フェーズで「人事常駐(PMO)支援」を決断した理由

FMHR 山﨑 御社とは2年に及ぶ人事制度改定からご一緒し、前回の対談ではその設計背景を伺いました。2025年10月に等級、続いて報酬制度が切り替わり、最初の半年間はアドバイザリーとして疑問への回答や他社事例の共有を行ってきました。そして2026年4月からは、「常駐支援」という新たな支援形態へ移行しています。当時、どのような課題感から常駐支援の導入へと踏み切られたのでしょうか。

藤原 新制度を導入してからの半年間は、現場への周知や説明会を重ねることで何とか立ち上げを乗り切ることができました。ただ、人事制度は1年間回して初めて定着するものです。アナウンスが一通り落ち着き、いよいよ目標管理や中間レビュー、期末の評価会議といった運用の各論をどう組み立て、現場とすり合わせていくかというフェーズに入ったとき、大きな壁に直面しました。制度設計の段階では運用の細かな手順まで詰め切れていたわけではなく、日々の実務に追われる中で「このままでは実際の運用が追いつかない」という強い危機感を抱いたんです。

FMHR 山﨑 春先までアドバイザリーとしてご一緒する中でも、早く具体化を進めなければという当時の切迫した状況は、お二人から強く伝わってきていました。

藤原 外部からのアドバイスや他社事例といった専門的な知見は、もちろん非常に助かっていました。ただ、当時の私たちにとって最も切実だったのは、率直に「手が足りない」ということだったんです。新制度の企画・推進を担うコアメンバーのリソースが限られる中で、ここから先を乗り切るには、もう1人強力な実務の「手」が必要でした。コンサルティングのように納品して終わりでも、アドバイザリーのように助言をもらうだけでも足りない。「この資料のここを作ってほしい」と踏み込んで一緒に手を動かしてくれる存在が必要だった。それが、常駐支援をお願いした理由です。

増井 外部からの助言だけだと、各部署の実情や社内の細かな空気感までは共有しきれないもどかしさがありました。いくら有益な助言をいただいても、「それを自社の文脈にどう落とし込み、現場と調整すべきか」という部分で、どうしても推進メンバーだけで抱え込みがちだったんです。常駐支援という形で深く入り込んでいただければ、そうした現場のリアルな状況も共有した上で、同じ目線で動いてもらえるのではないかと期待していました。

FMHR 堀井 常駐支援の価値はまさにそこにあります。外部の相談役にとどまらず、社内の一員として関わらせていただけるからこそ、現場のリアルな課題や空気感まで肌で共有できる。「今こういう状況で困っている」という相談を受けたら、その場ですぐに「ではこうアプローチして、このアウトプットを作りましょう」と具体的なアクションへ落とし込めます。藤原さんや増井さんが初めから課題をオープンに共有してくださったからこそ、立ち上げの段階から密に連携できました。

暗黙知を仕組みに落とし込む。外部人材を入れて挑んだ「業務の標準化」

FMHR 山﨑 常駐支援として定期的に御社へ伺うようになり、最初に着手したのが人事部内のフォルダ整理と業務マニュアルの整備でした。外部人材が一過性の支援として目の前のタスクだけを片付けて去るのではなく、ご支援が終わった後も社内で業務が回り続ける「再現性」を残すには、まず業務の土台を整えることが不可欠だと考えたからです。この業務の標準化については、御社内でも以前から課題として共有されていたのでしょうか。

増井 ええ。新制度をこれから何年も安定して運用していくためには、業務の標準化が急務だという共通認識はありました。ただ、日々の実務に追われる中で、自分たちだけでその基盤作りにまで手を広げるのは難しかったのが実情です。

藤原 当社のこれまでの人事業務は、良くも悪くも個人の経験則や阿吽の呼吸を頼りに、それぞれのリソースを振り絞って対応してきた側面がありました。進め方が担当者の頭の中に留まりがちで、ノウハウが属人化していたんです。そこを仕組みとして整理し、誰もが同じ情報にアクセスできる環境を整えていただいたことは、非常に意義のある大きな変化でした。

FMHR 堀井 藤原さんや増井さんに豊富な経験値があるからこそ、個人の力で業務を回せてしまっていたのだと思います。ただ、頭の中にある進め方に頼っていると、業務の全体像やゴールまでの道筋が周囲からは見えません。結果として、細かな作業単位でしか仕事を切り出せないという難しさを抱えられていたのではないでしょうか。

藤原 おっしゃる通りです。そこでFMHRからガントチャートを活用した業務設計を提案されたときは非常に新鮮でした。人事業務を一つのプロジェクトとして構造化し、目的から逆算してタスクを可視化したことで、いつまでに何を準備し、どのタイミングで確認を挟むべきかが関係者全員の共通言語になりました。

FMHR 山﨑 常駐支援の日には、まず朝の打ち合わせで当日の優先順位をすり合わせるようにしています。全体の設計図が共有されているからこそ、突発的な課題が生じた際も、その場の状況に応じてタスクの順序を組み替えながら着実に前進できていると感じます。

藤原 従来こうした常駐支援を受けたことがなかったため、当初は社内で「変に悪目立ちしないか、浮いてしまわないか」といった懸念もありました。しかし、日々の実務に入り込んでいただく中で、今ではチームにすっかり自然な形で溶け込んでいます。単に作業を手伝ってもらうだけでなく、業務が回る仕組みそのものを残していただけているのは、組織にとって非常に大きな財産です。

対立ではなく「並んで考える」関係へ。現場での「想定外」とどう向き合ったか

FMHR 山﨑 人事部内の土台作りと並行して進めてきたのが、目標管理や評価会議といった現場を巻き込む実運用です。ただ、どれほど綿密に設計した制度であっても、実際に動かし始める初年度は現場に戸惑いや摩擦が生じやすいものだと思います。この数か月間、現場と向き合う中で具体的にどのような難しさに直面されましたか。

藤原 新制度は一人ひとりの適材適所やスキルアップを促し、会社を良くするために導入したものです。しかし現場からすると、評価や目標設定の負担が一時的に増えるため、「前の方がやりやすかった」という声が上がってしまうこともありました。また、制度の趣旨を説明しても現場ごとに異なる解釈をされ、想定とズレた使われ方をしそうになる場面もありましたね。その都度、「ここはルール通りに進めてもらうべきか」「それとも現場の実態に合わせて制度の側を少し寄せていくべきか」という、制度と運用の“塩梅”を探る難しさを痛感しました。

FMHR 堀井 制度を構築した人事の側からすると、どうしても「決めたルール通りに運用すること」を優先したくなりがちです。しかし藤原さんや増井さんは、「何のための制度か」「目指すべき会社の姿は何か」という原点から常に逆算されていますよね。だからこそ、現場の状況に合わせて「必要であれば制度の側を変えていこう」という柔軟な姿勢を持ち続けられているのだと思います。

増井 制度を押し付けるだけでは現場は動きませんからね。ただ、自分たちが目指す理想がある一方で、「この進め方が本当に正しいのか」「現場にどう受け止められるか」という不安は常にありました。新しい取り組みであるがゆえにすぐに答えが出るものではなく、現場の声を受け止めながら手探りで答え合わせを続けているような感覚でした。

FMHR 山﨑 その手探りのプロセスにおいて、我々のような外部の人間が人事と現場の「橋渡し」になれればと考えていました。常駐支援を通じて各部署の実情や空気感を直接知っているからこそ、マネージャーの方々がどこで不安を感じやすいかを想定した資料作成や会議の設計ができます。そうした事前準備に加えて、実際の会議にも第三者として同席させていただくことで、「人事対現場」という対立構図を少し和らげることができたのだと思います。主力事業である中古車オークション部門のマネージャー会議にも継続して参加していますが、回を重ねるごとに参加者の表情がほぐれ、対峙して向き合うのではなく、同じ課題に対して「並んで考える」姿勢へと変化していったのが非常に印象的でした。

藤原 私自身はこの会社に長くいる分、どうしても社内の常識に染まっている部分があります。そうした社内の会議に山﨑さんが入り、人事部の肩を持つわけでもなく、「世の中の流れはこうです」「他社ではこういう事例があります」と染まっていない視点をフラットに挟んでくれることで、議論がリフレッシュされる効果がありました。現場から上がってくる様々な声に対しても、「こういう意見が出ているがどう考えるべきか」を山﨑さんに相談しながら、現場の状況も汲み取った上で現実的な着地点を見出していくことができたと感じています。

いつか「PMOがいなくなる日」を目指して。思考プロセスの伝承と内製化への挑戦

FMHR 山﨑 目標管理や評価の運用といった初動の支援を経て、次のサイクルに向けてご契約の継続をいただきました。今回、継続というご判断に至った背景や決め手について、率直なところをお聞かせいただけますか。

藤原 現実的な理由としては、制度運用の総仕上げとなる期末の評価会議の本番はまさにこれからです。会議の設計や当日の進行支援を含めてまだまだ一緒に手を動かしていただく必要がありますし、PMOをお願いした当初には見えていなかった新たな課題も出てきています。ただ、それ以上に大きいのは、山﨑さんに関わっていただく範囲を、私と増井の2人だけではなく、人事部の他のメンバーや事業側へと広げていきたいという思いです。

FMHR 山﨑 スピードを上げることよりも、関わる範囲を広げていきたいというお話ですね。

藤原 ええ。私自身はつい物事を早く進めたくなってしまう性分なのですが、周囲や現場が追いついてこなければ、人事部だけが独走しても意味がありません。だからこそ、急ぎすぎるのではなく、幅広い関係者を巻き込み、足並みを揃えながら進めたい。そのために、新しいツールや仕組みを実際に動かしていくプロセスにも、一緒に入り込んでいただきたいと考えています。

増井 私自身の直近の課題としては、後任となるマネージャー候補の育成があります。ガントチャートの活用もそうですが、一つのプロジェクトを任せた際に、メンバー自身が目的からタスクを分解し、自分で回していけるようにしたい。その育成の側面においても、山﨑さんにお力添えをいただきたいと考えています。

FMHR 堀井 山﨑がどういう順序で物事を考え、タスクを大項目・中項目へと分解しているのか。その思考プロセスを、机を並べて一緒に仕事をする中で人事部メンバーの皆様に感じ取っていただくことこそが、本当の意味での成長支援につながると考えています。「このゴールに向けて、いま自分がやっていることにはどんな意味があるのか」という全体像を捉える視点を身につけていただくことが、結果としてお二人の今後の助けにもなるはずです。

藤原 そうですね。外部の知見を吸収できるだけ吸収して、自分たちのものにしていきたい。ずっと頼り切りの状態が続くのは健全ではありません。どこかのタイミングで必ず内製化を果たし、自走できる組織になることを目指すべきだと思っています。その上で、将来的にスキルマップの構築や次期制度改定といった新たなテーマに取り組む際に、改めてパートナーとしてご一緒できる形が理想です。

FMHR 山﨑 私も全く同感です。3年経っても私が同じ業務に関わり続けていたら、それは支援として失敗だと思っています。御社が自走できる状態を一日も早く作り、次の新たなステージへ進むためのパートナーとして、これからも伴走を続けていきたいと思います。

※内容およびプロフィールは取材当時のものです