荒井商事株式会社
現場の声に耳を傾け、頑張りが報われる制度をつくる ――新たな人事制度の再構築プロジェクト

制度改定後も気軽に相談できる関係でいてくれるのがありがたいです
管理本部 人事部長
藤原 正英

考えを押しつけるのではなく、私たちの理解を深めながら進めてくださった
人事部 人材開発課 マネージャー
増井 繭子

資料の質が秀逸。手を加えずとも、現場に対してスムーズに説明できました
人事部 採用課 マネージャー
鈴木 佑一
総合商社の荒井商事は2022年、経営方針を改め、「3年単位で動く会社」へと舵を切った。その実現に欠かせない基盤として着手したのが、人事制度の再構築だ。職能等級から役割等級への転換、キャリアの複線化、評価と報酬の見直し――。人事制度を“経営と現場をつなぐ仕組み”として設計し直すプロジェクトに、FMHRが伴走。新制度の本格運用が始まるタイミングで、制度改定に込めた思いや今後の展望などを語り合った。
「やってもやらなくても一緒」という声も……。急務だった人事制度改定
FMHR 山﨑 まずは御社の概要から教えていただけますでしょうか。
鈴木 弊社は総合商社として事業を行っており、大きな柱はオークション事業と食品流通事業の2本立てです。もともとは米の卸問屋から始まった会社ですが、開拓者精神を持ってニッチな領域に挑戦し続け、現在の形にたどり着きました。大黒柱であるオークション事業は、中古自動車・中古機械の流通を支えるもので、出品から検査、落札まで一貫した仕組みを持っています。また国内だけでなく海外にも拠点を置き、グローバルに事業を展開しています。
FMHR 山﨑 人事制度の改定を行うに至った背景についても教えてください。
藤原 人事制度の改定に踏み切った理由はいくつかあります。一つは、コロナ禍を経て社会や働き方、社員の価値観が大きく変わったこと。それに加えて、弊社では経営スタイルも転換期を迎えました。以前は単年単位で動く、創業以来のオーナー経営色が強い会社でしたが、2022年からは中期経営計画を導入し、3年単位で戦略を立てて実行する体制へと移行したんです。その結果、自ら考え、柔軟に行動できる人材が以前に増して求められるようになりました。
FMHR 山﨑 「求める人材像」が変わったことで、人事制度も見直しを迫られたということですね。
藤原 そうですね。どの企業にも通じる話かもしれませんが、旧制度のままでは時代にも会社の方向性にも合わなくなっていたと思います。実際、制度改定の前に社内でヒアリングを行った際には、一部から「やってもやらなくても一緒でしょ」という声が出てきました。特に中堅層、次のリーダーになる層ほど「頑張っても報われない」と感じている傾向があった。これは放置できない課題でしたし、頑張った人が報われる会社にしたいという思いを改めて強くしました。
増井 年功序列による閉塞感が漂っているところもあったかと思います。上が詰まっていて自分のポジションが動かない、先輩が昇格しないと自分も上がれない、そんな声が現場からは聞かれました。そうした構造のままでは、いくら努力しても報われないと感じる人が出てくるのも仕方がない。だからこそ今回の改定では、マネジメント以外の道もきちんと用意して、専門性を高めていく人が評価されるようにしたい、という思いがありました。
鈴木 確かに以前は、向上心を掻き立てられるような環境ではなく、自分自身もどこかその空気に染まりかけていた部分があったかもしれないなと思います。けれども、そうした雰囲気を変えていこうという機運が社内で少しずつ高まってきて、今回の制度改定プロジェクトが動き出した。私にとっても、自分のマインドを改めるうえで大きなきっかけになりました。
正当に報われる制度を目指し、「職能等級」から「役割等級」に転換
FMHR 山﨑 私どもは、新人事制度の設計から教育体系の見直し、現在の運用に至るまで、伴走支援を続けさせていただいています。FMHRにご依頼いただいた経緯を教えてください。
増井 「次世代リーダーの育成」をテーマに相談したのがきっかけです。その後、人事制度の改定を検討しようという話が社内で出てきて、FMHRがその領域も得意とされていると聞き、提案をお願いしました。お話を伺う中で、制度の設計から運用まで一貫して支援してもらえる点などに魅力を感じ、ご一緒させていただくことを決めました。
FMHR 土橋 ありがとうございます。ここからは制度改定の過程を振り返っていただければと思います。特にこだわった点などはありましたか?
藤原 一つは「多様なキャリアを描けるようにすること」ですね。従来はマネジメントにならなければ昇格できない一本道の仕組みでしたが、それだけでは社員の成長意欲を引き出しきれません。マネジメントを目指さない人でも専門性を高めて貢献できるような道筋をつくるべく、複線型キャリアを導入しました。もう一つは「頑張った人が報われる制度」にすること。評価のメリハリを明確にし、成果に正当に報いる仕組みに変えました。報酬面では、競合他社の水準も意識しながら、限られた原資の中で上げるべき人をしっかり上げる。また足もとだけでなく、少なくとも5年先も使っていける制度にしたいという思いで設計しました。FMHRにもその意図を共有しながら、現場に根づく制度づくりを進めました。
増井 最も大きな変更は、職能等級から役割等級への転換です。「何ができるか」ではなく「どんな役割を担うか」で格付けする仕組みに変えました。現場との調整は大変でしたが、等級を役割ベースで捉えるという考え方が少しずつ浸透してきています。
藤原 等級の数も整理しました。以前は7階層あったものを、最終的に5階層に減らしています。階層が多いと、上と下の距離が遠くなり、情報が伝わりにくくなる。なるべくフラットな組織にしたいという意図です。また、今回の改定を機に、役職呼称を廃止して全員が「さん」づけで呼び合う文化にしました。上下の垣根を取り払い、風通しの良い職場づくりを進めていくための取り組みです。
新制度の運用に向けて「現場での直接のコミュニケーション」を徹底
FMHR 土橋 では、改定プロセスの難所はどの辺りだったでしょうか。
藤原 難しかったのが、オークション現場で車両検査を担う検査員を制度の中にどう位置づけるかです。約60名の社員が現場で日々、車の状態を見極める仕事をしていますが、これまではその技能や経験を人事制度に適切に組み込む仕組みがありませんでした。彼らの目利きが会社の信頼の根幹を支えていると言ってもいいのに、職能等級の枠の中では正当に位置づけられていなかったんです。
FMHR 土橋 現場ではすでに独自にスキル評価をされていて、それをどう人事制度と結びつけるかがポイントでしたね。別々に走らせてしまうと、評価の目的が曖昧になり、現場にも負担がかかる。だからこそ、現場の考えややり方を尊重しながらも、人事制度の中で一貫性を持たせたいと考えました。最終的には、技能をしっかり評価できて、全体の仕組みとも整合が取れるように「スペシャリスト職(SP職)」という新しい区分を設ける形にしました。
藤原 FMHRにそのようなご提案をいただき、現場の意見を踏まえた制度をつくれたのはすごくよかった。スペシャリスト職は、今後ほかの職種にも広げていける可能性がありますし、専門性を持って会社を支える人材をきちんと評価する流れの第一歩になったと感じています。
鈴木 実際に現場を見ていると、検査員のモチベーションが上がったのを感じます。自分たちのスキルがきちんと評価されるようになり、「自分の仕事が会社の成果につながっている」と実感できるようになってきた。制度が変わったことで、そうした意識の変化が現場にも広がっていると思います。
FMHR 土橋 今まさに制度を本格運用していく段階に入ったところです。滑り出しはいかがですか。
藤原 人事制度は運用が始まってからが本番だと考えています。そのために、試験運用の期間も含めて説明会やディスカッションの場を設け、「何のための制度改定なのか」という点をできる限りお伝えしてきました。ただ、すべてを十分に伝えきれたとは思っていませんし、本運用に入った今こそ、さらに丁寧に説明を続けていく必要性を強く感じています。
増井 人事部からの説明に対して、全員が「よくなりそうだね」と言ってくれたわけではなく、やはり斜に構える方もいました。でも、それも含めて受け止めなければいけないですし、だからこそ現場に足を運んで直接コミュニケーションを取ることを大事にしてきました。
FMHR 山﨑 人事部の皆さんが、制度の“説明責任”を最後まで担おうとしている姿勢は、プロジェクト全体を通して一貫していたと感じました。今後も丁寧に伝えていこうとされている点が、まさに制度を運用していくうえで大きな力になると思います。
いかに制度を育てていくか――。目標設定の領域などで今後も支援は続く
FMHR 土橋 制度構築から運用のフェーズまでをご一緒してきましたが、あらためてFMHRの支援に対する印象をお聞かせいただけますでしょうか。
藤原 親身になって伴走してくれた、という印象が強いですね。こちらの特殊な事情や意向をしっかりくみ取りつつも、「ここは譲れません」という部分はきちんと筋を通して提案してくれる。そういうバランスがありがたかったです。先ほども触れましたが、検査員の評価の枠組みとして新たにスペシャリスト職を設けてくださったのは象徴的で、私たちが当初から要望していた「拡張性のある制度にしたい」という思いにも応えてくださいました。
増井 実は私自身、コンサルティング会社と一緒に仕事をするのは今回が初めて。「こちらも一定の知識がないと議論にならないのでは」と、最初はハードルの高さを感じていました。でも、実際にご一緒してみると、分からないことを率直に聞ける雰囲気があって、すごく話しやすかった。FMHRは考えを押しつけるのではなく、私たちの理解を深めながら進めてくださったので、社内メンバーも安心して関われたと思います。今回の人事制度改定プロジェクトを通じて学んだ知見は、今後の運用や、また次に改定するときなどに生かしていきたいと思います。
鈴木 私は資料やアウトプットの質に感心しました。人事制度の内容はどうしても複雑になりがちですが、FMHRが作成してくれた資料は、整理が行き届いていてとても見やすい。おかげで、人事部側が追加で手を加えることなく、現場に対してスムーズに説明できました。これは大きな助けになりましたね。
藤原 制度をつくって終わりではなく、その後も気軽に相談できる関係でいてくれるのもありがたいです。期間が終わってからも、「ここはどう運用すればいいか」といった細かい質問に丁寧に対応していただいています。この制度をいかに育てていくかが次のフェーズ。ロジックツリーを使った目標設定の仕組みづくりにも、FMHRの支援を得ながら取り組み始めました。社員一人ひとりが自分のキャリアを自律的に考え、動ける会社にしていくために、現場の声を聞きながら制度のブラッシュアップを重ねていきたい。そのプロセスもFMHRと一緒に考えていければと思っています。
FMHR 山﨑 私どもとしても、人事制度の運用フェーズまでしっかりとお支えし、十分に使いこなせる状態にすることこそが本当のゴールだと考えています。今後もその実現を目指して力を尽くさせていただきたいと思います。
※内容およびプロフィールは取材当時のものです