株式会社ADKホールディングス

変貌を遂げる総合広告会社の“As-Is/To-Be“のスキルを言語化――「スキルマップ」作成プロジェクト

多様な職種の各々において重要なスキルを見える化する感覚が鋭かった

ピープルマネジメント本部 ラーニング&ディベロップメント局

甲斐 雄一郎

弊社が追い求めていくべきスキルをしっかりと形にできた意味は大きい

ピープルマネジメント本部 ラーニング&ディベロップメント局 人財開発グループ

所 祐毅

広告業界大手のADKグループは、既存の広告事業のみならずマーケティング支援等にも注力し、事業構造を改革しようとしている。その動きとともに急務として浮上したのが、グループ社員が有するスキル、ならびに今後に向けて獲得していくべきスキルの可視化だ。多岐にわたる職種と業務内容を精査し、スキルマップの作成を実施。企業担当者とコンサルタントが一連のプロセスを振り返った。  

総合広告会社がスキルマップの作成に着手した理由

FMHR 山崎 まず、ADKグループ様の事業概要についてあらためて教えていただけますか?

弊社はいわゆる総合広告会社ですが、昨今はマーケティング支援会社としての色合いも濃くなりつつあります。生活者にとってのマスメディア(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)の役割が変化している現状もあり、メディアマージンに頼っていた利益構造から、広告以外の領域での収益も伸ばしていこうと模索しているところです。クライアント企業様の事業の上流の部分からも関わり、よりマーケティングを総合的に支援できるような会社になるべく日々業務改革に取り組んでいます。

FMHR 山崎 スキルマップの作成に着手することとなった背景についても教えてください。

甲斐 主に2つの理由があります。1つ目は、どんなスキルが我々のビジネスにとって必要であるかを可視化する必要があるというAs-Isの課題認識。そこに関しては、これまで口頭や現場のOJTで伝えられてきたものですので、社員や職種、部署によって伝わり方が異なっていました。もう1つは、会社として新領域に踏み出していくことも踏まえ、今後求められることになるスキルを明確にし、それを共通言語化する必要性が以前に増して高まってきたというTo-Beの課題認識です。もちろん新しく入ってくるメンバーもいますし、新領域に展開していくにあたって多様な業界、多様な外部人材との接点も増えていきます。そういうときにADKの社員一人ひとりの言っていることがバラバラでは困りますよね。ADKの一員として、現在および未来において必要となるスキルを共通認識として確立しなければいけないと考えました。

FMHR 山田 スキルマップの作成を自社で行おうとは考えませんでしたか?

甲斐 社内でテクニカルスキルを整理したものなど、ベースとなるものがなかったわけではありません。ただ、スキルマップの作成となると私たちとしては初めての試み。専門家のお力を借りたほうが速く、良いものができると考え、そこには適切な投資をするべきだと判断しました。

FMHR 山崎 弊社にご相談いただけた理由は何だったのでしょうか。

甲斐 いくつかのコンサルからお話を伺ったのですが、FMHRさんの内容が一番具体性があって現実に即したものだと感じました。もう一つ理由を挙げるなら、実績です。私たちが目指している場所まで最短距離で導いてくださるのが御社だと感じ、最も安心感のあるパートナーとして声をかけさせていただきました。

FMHR 山田 どのようなところで弊社に実績があるとお感じになったのでしょう?

甲斐 御社のホームページに掲載されている事例を拝見したところ、弊社と近い業種でスキルマップ作成に取り組まれたケースが紹介されており、非常に参考になりましたね。FMHRさんにつないでいただき、その企業様に直接お話を伺いに出向いたりしました。先行事例のお話を伺うことで具体的なイメージをもつことができ、「私たちもやってみよう」という気持ちが固まりました。

多様な職種・業務をどのようなスキルで括るべきか。

FMHR 山田 クライアント様同士で情報交換をしていただき、プラスの相乗効果が生まれたことは私たちとしてもうれしいです。そうして実際にプロジェクトがスタートしたわけですが、滑り出しの感触はいかがでしたか?

弊社の場合は、職種が多岐にわたるという点が非常に特殊だと思います。弊社では営業(ビジネスプロデューサー)もあればIP(コンテンツ)の発掘や商品への展開、映像コンテンツ制作、戦略プランナーなどなど、グループ会社ごと、またそれぞれの部署ごとに担っている仕事が本当に多様で複雑です。だからこそ、それらの業務をどのような括りで整理していくのかというところが最初の難所になりました。

FMHR 山田  それに加えて「As-IsだけではなくTo-Beも反映したスキルマップをつくりたい」というご要望がありましたね。まったく答えの見えない課題に挑んでいくことになりましたので、実は私たちとしても非常にプレッシャーを感じていました。

甲斐  本当に無理なお願いに応えていただいたなと思っています。まずは各職種の業務プロセスを明らかにするために社員へのインタビューを行うことになりましたが、そこで弊社として意識したのは人選ですね。このプロジェクトを進めるうえで、誰からどう具体的な言葉を引き出すのかが非常に重要だと考えたからです。

FMHR 山田  参加してくださった方々がインタビューに前向きに答えてくださったおかげです。先ほど人選のお話がありましたが、皆さんの積極性を引き出す工夫は何かされたんですか?

甲斐  工夫と言えるかどうか分かりませんが、弊社の人材の特性というか、頼まれたことに対して最大限のパフォーマンスで応える、というタイプが多いことが挙げられます。もちろん、できるだけいろいろな考え方の人の声が集まるように、多様な参加者を選ぶことに重きを置きました。

FMHR 山田  それに関しては、プロジェクトメンバーにも同じことが言えるのではないかと思います。難題を乗り切れた要因の一つが、私どもも含めたワンチームとして、忌憚のない意見を言い合える場ができていたことだと思うんです。それと、このスキルマップ作成に何のために取り組んでいるのかというおおもとの目的を見失わなかったこと。常にそこに立ち返れたおかげで、ブレることなく建設的な議論ができたなと思います。

甲斐  確かにそうですね。そこもまた人選がうまくいったのかなという感触があります。若いメンバー、中途入社のメンバー、制度や評価に詳しいメンバーなど、多様な軸をもつ面々を呼び寄せることを意識しましたし、上下関係がさほど厳しくない組織風土でもあります。その結果、議論の活発化につながりました。

FMHR 山田  業務区分を行ったときに、その業務に携わっている方から「確かに私たちがやっている仕事を整理するとこんな感じになるんだと思います」とご納得いただけたときに、私どもとしてもとても手応えを感じられました。

「To-Be」とともに、失うべきでない根幹のスキルにも目配り

FMHR 山崎  そういうお言葉をいただけたときは、私もすごくうれしかったですね。例えばメディアの部門では、甲斐さんのお話にもあった通り暗黙知の部分がかなり大きかった。「外部取引先のキーパーソンとの関係構築」という要素を、どうスキルとして表現すればよいのか。言葉に落とし込むのに非常に苦労しただけに、ご納得をいただけたうれしさはひとしおでした。

甲斐  第三者的な目線で、少し離れたところから観察し解釈してくださったからこそ、スキルの言語化ができたのだろうと思います。私たちとしても気づかされる部分が多かったです。今回の取り組みではTo-Beの視点を盛り込むことも大事なテーマでしたが、それを意識するあまりADKの良さ、ADKらしさみたいなものを失わせたくないということも同時に考えていました。To-Beというのはこれから体現すべきスキルであり、今はまだできていない部分も多い。社員がスキルマップに入力していくときにあれもこれもできていないことばかりだと、モチベーションをくじくことにもなりかねませんし、企業としての核の部分、守っていかなければならない大事なものもあります。そこのバランスには意識しながら取り組みました。

所  例えば、「人間関係をつくるのもひとつのスキルだぞ。」と言われたときに、ある程度経験のある社員ならその本質をすぐに理解できると思いますが、新しく入ってきた若手社員が同じように理解できるとは限らない。これまで言語化できていなかった弊社の根幹にあるスキルとこれから追い求めていくべきスキルの両方を、このタイミングで一度しっかりと形にできた意味は大きいなと思っています。

FMHR 山田  現在、プロジェクトで作成したスキルマップに各社員の方たちが入力する段階へと入っているかと思います。どのような反響が出てきていますか?

所  やはり初めてのことですし、現場への負荷がかかっているという声は多少なり聞こえてきています。ただ、グループインタビューに参加してもらう、丁寧に説明会を行うといった形で社内を巻き込んでスキルマップ作成を進めてきたので、その必要性をしっかりと認識してくれている社員も多いです。社内への浸透や理解を深めていくことについては、これからも工夫しながら取り組んでいく必要があると感じています。

甲斐  「これをどう生かしていくかが大事だ」と考えております。スキルマップを作成して終わりではない。To-Beの部分に関しても年数を経るごとに変わっていく可能性がありますし、常に見直しながらより良いものに更新していく。そうやって毎年続いていく取り組みなのだろうと考えています。

FMHR 山田  おっしゃる通りだと思います。スキルマップの活用施策などに関しても、またお困りのことがあればいつでもご相談いただければ幸いです。

※内容およびプロフィールは取材当時のものです