CASE

株式会社コーセー

処遇改善と活躍領域の拡大で販売スタッフがより輝く制度に

BCの職業価値を上げるためにも人事制度改定は避けて通れなかった

人事部

野本 真智子

全体のスケジュール感を最初にご提示いただけたのが大きかった

人事部

阿藤 舞

堅実な成長を見せる化粧品大手のコーセー。だが、販売スタッフを取り巻く環境は時代の変化に後れを取り、人事制度の抜本的な改定は急務となっていた。コンサルとの協業で制度改定を完遂するまでの道のりを当事者たちが振り返る。

“美容部員”から“BC”へ旧態依然の人事制度を改定

FMHR 金子 まず、人事制度改定に踏み切った経緯、背景をお話しいただけますか?

野本 以前の制度は10年以上も前につくられたものでした。その間に会社は大きく成長しましたが、制度としてはつぎはぎでなんとかしのいできた状態。このままでは、人材の成長を通じた会社組織のさらなる発展を描きにくい状況になっていました。特にBC(ビューティーコンサルタント)の処遇を見直す必要性を強く感じていました。

FMHR 山田 制度改定でBCという名称になりましたが、一般的には「美容部員」などと呼ばれてきましたよね。それも含め、業界の華やかなイメージとは裏腹に、旧制度にはある種の古くささがあったように思います。入社後の数年間は賃金が低く、勤続が長くなるにつれて厚遇される。年功序列的な色合いが濃い制度でした。

野本 そうですね。昔は化粧品の販売員といえば、航空会社のCAと並ぶ人気の職種でした。でも、時代とともに女性の働くことへの価値観の変化や、職業の選択肢が増えたことで、BCの職業価値が伝わりづらい状況になってしまっていた。デジタルマーケティングやAIの活用が加速する一方で、人を通したカウンセリング販売は今後より重要度を増すのではないかと考え、人事制度の刷新は避けて通れない課題だったのかなと思います。

FMHR 金子 プロジェクトのパートナーとしてFMHRを選んでいただけたのはなぜですか?

野本 コンサルを使うかどうかというところから議論はありました。"マンパワー"が重要視されており、社内のことは社内の人間で対応すべきという風土を感じていました。しかし、今の時代に合った、かつ先々も見据えて流動的に運用できるような制度をつくるには我々だけの知見では限界があるとも思っていました。コンサル数社のご意見を伺ってみたところ、最初の直感でFMHRさんがいいなと感じましたね。

FMHR 金子 どんな点がよかったのでしょう?

野本 知名度のある大手コンサル会社のご提案も受けましたが、教科書に載っているような概念的な内容だったり、あるべき姿だけを提示してこられたり、弊社の風土にはないような新しいものを取り入れるご提案だったり。そうした中でFMHRさんは、弊社の資源を有効活用する方針で、運用面まで視野に入れた具体的なご提案内容でした。それに山田さんとお話しした際の印象として、人としての感覚や感度が合うと感じたんです。私たちのペースに合わせて、手足や頭を一緒に動かしていただけそうだな、と。

FMHR 山田 うれしい限りです。御社の状況をヒアリングした時、個々の施策は決して悪くないのに、全体として一つにつながっていない印象がありました。それを有機的につなげていくだけでも、かなり改善されるはずだと思っていました。

設計図と巧みなリードでスピード感ある進行を実現

FMHR 金子 プロジェクトの経過を振り返って、どんな感想をお持ちですか?

阿藤 最初に人事制度改定の話が出た時は、「富士山に登れ」と言われているような感覚でした。誰も経験したことがないし、何から始めればいいのかも全然わからない。そういう状態の中で、FMHRさんからまず全体のスケジュール感をご提示いただけたことはかなり大きかったと思います。ああいった設計図がなければ、何を変えなければいけないのかを考えることだけですごく時間を費やしていたでしょうし、期日に間に合わせるのは無理だったろうなと思います。

野本 社内だけで進めると、「じゃあ次回に」と判断を持ち越しがち。でも、山田さんがいつも仰っていた「決めですから」の一言に背中を押され、計画どおりに、スピード感を持ってプロジェクトを進行することができました。制度策定時には社内での答申の機会も多くありまし たが、最終的には「決めですから」というのが私たちの決めゼリフのようになりました。

FMHR 金子 今回の制度改定では、各等級の役割を明文化したり、評価基準を成果だけでなく成長のプロセスや教育・マネジメント能力にまで広げたりと、様々なテーマに取り組みました。一番頭を悩ませたのはどのあたりでしたか?

阿藤 私の最大のヤマ場は、コストシミュレーションのところ。国内だけでも3500名ほどいるBCを新たな等級に振り分けた場合に、項目を一ついじるだけで何千万円というコストが変動するんです。これを間違えると大変なことになるので、かなり緊張感がありました。相談や不安ごとも山田さんにメールをすると、意図を汲んだ返事と対応がすぐにありました。結果としてBCが納得できる処遇を用意できたのは、そのサポートがとても大きかったです。

野本 私にとって印象深いのは、言葉の使い方がすごく巧みだなという点。人事ポリシーや「BCとは」というあるべき姿など、それぞれが持っているふわっとしたイメージをちゃんと定義づけてふさわしい言葉に置き換えてくださった。自分たちでやるにはなかなか難しい部分だったので、ありがたかったですね。

FMHR 山田 プロジェクトメンバーの中で最も直近まで現場に近いところで仕事をされていたのが阿藤さんでした。現場感のある鋭いご指摘に気づかされることもたくさんありました。

営業の根幹を支える BCがより輝ける制度に

FMHR 金子 私はプロジェクトの途中から参加させていただきましたが、野本さんや阿藤さんが現場のBCの方、一人ひとりの顔を思い浮かべながら取り組まれている姿勢がとても印象的でした。

野本 直接お客様に商品をお届けし、会社の売上をつくっているのはBCなんです。VISION2026において、5000億の経営目標を掲げる中、約3500名のBCの活躍は非常に重要だと私は考えています。それに、何か不満をもって働くより、「この会社でよかった」と思って働くほうが絶対に成果はあがる。そういう信念があるからこそ、BCがより輝ける制度にしたいという思いで取り組んでいましたね。

FMHR 金子 制度改定の効果などを感じることはありますか。

野本 改定による大きな変更点の一つが、これまで限られた領域の中で仕事をしてきたBCが、総合職や営業職など、より幅広い活躍の場を得られるようになったことです。早速、選考に応募するなど、新たな職種に関心を持って動き出しているBCも出てきています。マネジメント層からも、BCの活躍の機会が増えたことや、成果に沿った評価や処遇を提示できることに対しての前向きな意見を多くいただいています。

阿藤 ちょうど会社としても、BCの活躍領域を広げていこうという流れができてきたところで、もし今回の改定がなかったら、制度が会社の動きの後手に回ってしまう可能性がありました。制度改定がこの時期にすでに完了していたおかげで、BCを含めた営業の強化をスムーズに進められる状態になっています。

FMHR 山田 これは私の個人的な思い出ですが、プロジェクトの途中、コンサルに懐疑的だった社内の空気が変わってきたというお話を野本さんからお聞きしました。「コンサルさんともうまく仕事を進められるんだよ」と胸を張るような気持ちになられている様子でした。あの時はうれしかったですし、信頼を崩してはいけないなと気を引き締めたことを覚えています。

野本 FMHRさんは、ただ提案するだけではなく手も足も、いわば泥臭く動かしてくださる。弊社の中でのコンサルのイメージは本当に変わったと思いますよ。

FMHR 金子 これからの課題としてはどんなことが考えられるでしょうか。

野本 実際の制度運用はこれからがスタートです。今後出てくるであろう様々なケースにどう対処していくか、まだ不安な部分はありますね。それに評価する側の人材も育てる必要があるので、評価者研修をどう進めていくか。制度だけがあっても人は成長しませんし、活躍領域を広げたといっても、そこで活躍できる人を育てなければ意味がない。人材教育をどう推し進めていくかがこれからの大きな課題だと認識しています。

※内容およびプロフィールは取材当時のものです