CASE

春秋航空日本株式会社

特に留意したのは、運用のしやすさをどう担保するか

組織の方向性を社員に示すことは人事制度の大切な役割

執行役員・管理本部本部長・人事部 部長

渡邊 剛志

若手を育成するためにも「行動評価」は外せなかった

人事部 マネージャー

槍木 克己

現場へのヒアリングを通して初めて知ることも多かった

人事部

萩原 尚太

さらなる成長に向け、『SPRING』を新たなブランドに掲げたLCCの春秋航空日本。専門性の高い職種や人材の多様性に対応した人事制度の再構築は不可欠だった。社としての指針を体現した新制度策定の過程と意義を、携わった4人が語る。

整合性に欠けていた 旧人事制度の改革に着手

FMHR 山田 人事制度の再構築をするに至った背景を、まずはご説明いただけますか?

渡邊 弊社は上海に本社を置く春秋航空を母体として2012年に設立された、まだ歴史の浅い会社です。人事制度には不十分なところも多く、改革の必要性を感じていました。

FMHR 山田 旧来の人事制度はどのようなものでしたか?

槍木 制度と呼べるほどかっちりしたものではなかったですね……。「まずは飛行機を飛ばそう」というところに専念していたので、航空会社などで経験を積んだ専門人材を集めることが急務でした。個々の雇用時の契約に一貫性があったとは言えず、全体で見ると整合性がとれていないような状況でした。

FMHR 山田 以前の制度を私も見させていただきましたが、厳しい言い方をすれば場当たり的というか、パッチワーク的になっていましたね。改革にあたってFMHRを選んでいただけたのはなぜでしょう?

渡邊 FMさんには、この人事制度改革の前に、弊社の業務改革のほうでコンサルティングしていただいていました。そうした縁もあって、お声がけしたんです。

槍木 ほかにも数社に相談を持ちかけました。FMHRさんはご提案の内容がよかったですし、山田さんの人柄や話しぶりに接して「この方なら信頼できる」と思えたことが一番の理由でした。

FMHR 山田 ありがとうございます。あのころはちょうど、御社がブランドを刷新された時期でもありましたね。

渡邊 ええ。企業理念から見つめ直し、「春」や「飛躍する」などの意味を込めた『SPRING』を新ブランドに据えて再出発したところでした。

FMHR 山田 私としては、そういうタイミングにふさわしい、新たな再成長に向けた基盤となる人事制度、社内へのメッセージにもなるような制度になれば、という思いで取り組んでいました。

渡邊 たしかに、評価や給与の話につい偏りがちですが、組織としての目標や目指す方向性を末端の社員にまでしっかり伝えていくことは、人事制度の大切な役割の一つですよね。山田さんからは「組織としての目標を前提として個々人はどうあるべきなのか。そういうことからしっかりと議論しなければ、新しい制度をつくっても魂が入らない」とご指摘いただいて、本当に勉強になりました。「One Step Forward」という言葉も、そうした議論の中から生まれました。

FMHR 山田 航空会社として安全な運航管理が最重要なのは当然です。それは大前提としつつも「もう一歩、前に出る」気概を社員には持ってほしい。人事部がそうした願いを抱いていることは伝わってきていたので、いい言葉がないかなと考えて、会心のフレーズが出せました(笑)。

萩原 最初に耳にした時から、響きもいいですし、私たちが求める人材像にぴったりの表現だと感じました。結果、弊社の「人事ポリシー」として、その言葉を活用させていただいています。

渡邊 専門性の高い職種に就いている人材が多いのが航空会社の特徴ですが、一方で職人気質というか、自分のフィールドから出たがらない傾向もある。弊社はLCCとして、大手以上にいろいろな工夫をしていくことが宿命づけられた会社ですし、垣根を越えて一歩を踏み出すことはすごく重要なテーマなんです。

目標設定や給与水準是正で中堅・若手の意欲を向上

FMHR 山田 パイロットやCAといった職種は、航空会社ならではですよね。人事制度を考えるうえでもそこは特殊な部分であり、私も取り組んでいて新鮮でした。

渡邊 その2つは特にスペシャリティが高いですね。また職種だけでなく、国籍や年齢、雇用形態など、弊社は特に多様性があって、それが人事評価を難しくしている。以前は評価制度自体が不十分だったこともあって、適材適所の人事ができていたとは言い難い状況でした。

萩原 人事部としてわからないことが多かったからこそ、今回の制度改革にあたっては現場の従業員からしっかりとヒアリングを行いましたね。各部署の細かい事情に関しては、私たちとしても初めて知ることがたくさんありました。

FMHR 山田 パイロットなど職種によって給与形態もかなり特殊ですよね。

萩原 給与規定を細かく設計し直せたことは、今回の制度改革の大きな成果の一つです。給与のあり方を是正することは、非常に大きな課題でしたので……。

槍木 もともと経験者採用が中心だった影響で、全体の労務構成がベテランに極端に偏ってしまっていたんです。給与水準もおのずと高くなり、若手とのバランスがうまく取れていませんでした。

萩原 そうした過去の不明瞭な制度のもとで難しい状況に置かれていたのが、中堅・若手の社員です。給与の問題だけではなく、キャリアパスが制度として不明瞭でもありました。今回、評価基準が明確化され、さらに若手の登用を積極的に行う方針が打ち出されたことで、自分たちが何を目指して働けばいいのかが見えるようになり、やる気や安心感につながっていると思います。

心がけた「運用のしやすさ」「行動評価」は諦めるべき?

槍木 新たな制度の評価基準は、「成果」「プロセス」「行動評価」の3本柱。成果だけを基準にする案もありましたが、「主体性」や「協調性」といった行動評価なども基準に含めることにしました。

FMHR 山田 実は、私は最初、行動評価を入れることには消極的でした。というのも、制度の再構築にあたって特に私が留意したのが運用のしやすさだったからです。あまりに細かく、ガチガチの制度にしてしまうと、実務上、非常に運用しづらいものになる恐れがあるので、解釈に幅を持たせた、破綻しない制度になるように心がけていました。行動評価は定性的なものなので、現場の長が自分に都合のいいように評価できてしまう面もあり、運用の難易度がどうしても上がってしまうと懸念していました。

槍木 ただ、我々としては、若手の頑張りを汲んであげたい、育成にもつなげていきたいという思いもあったので、行動評価は外せなかったんですよね。

FMHR 山田 制度改革にご一緒させていただくなかで、見誤っていたのは私のほうだなと気づかされました。皆さん、“戦う人事”なんです。意思決定力があって、現場の声にも正面から向き合っていける。この方たちなら行動評価を基準に入れても十分に運用できる、と思いを改めました。

萩原 新制度で初めての行動評価はこれからなので「山田さんの言ったとおりだった」となるかもしません(笑)。とはいえ、ある程度はシンプルな形になっていますし、問題なく運用できるだろうと考えています。

FMHR 山田 2019年1月から新制度がスタートして、感触としてはいかがですか? 手ごたえや今後の展望も合わせてお聞きできたらと思います。

萩原 上期の終わりに中間評価が出たわけですが、人事として思い描いた形になっていると感じます。これからは、制度の柔軟な部分を生かして、それぞれの職種や働き方に応じた制度にさらに進化させていくことにも挑戦したいですね。

槍木 新たに評価の権限を与えられた人材に、研修などを通してマネジメント能力を向上させてもらうことにもまさに取り組んでいる最中です。また弊社におけるキャリアパスを明確に説明できるようになったことを、今後、採用の場面でも活かしていけたらと思っています。

渡邊 これからは転職しながらキャリアを形作っていく人が多い時代になっていくと考えられます。仮に他社へ移っていくにしても、「春秋航空日本にいてよかった」と思ってもらえるような会社でありたいし、我々はそれぐらいの度量を持って人材を迎え入れるべきなのかもしれません。航空業界の中で、私どもは最後発のチャレンジャー。器としては大きく構えながら、チャレンジャーらしく貪欲に成長していきたいですね。

※内容およびプロフィールは取材当時のものです